第14話『夜道で光る目』【怖さ★☆☆】
【第一試合 先鋒 剣聖フロラディーテ】
『ワー!!フロラディーテ様ぁ!!ワー!』
大歓声の中、フロラディーテが中央の闘技場まで歩を進める。
「すごい人気だな」
俺の言葉に直ぐ様オヤジーノが反応する。
「そりゃそうだろ!あの若さで剣聖だ!正直、力だけなら俺は負けねぇ。だがな、剣技となるとまるで勝てる気がしねぇ。天才という言葉は努力しなさそうで嫌いだが、あれはまさに天賦の才よ!」
俺は怖がっているフロラディーテしか見ていないから、正直ピンと来なかったが、部下からの信頼も厚く豪傑という言葉がピッタリのオヤジーノが言うのだ、間違いないのだろう。
『ワー!!そんな!?ワー!ワー!』
会場が騒がしくなる。どうしたんだ?彼女ならあっという間に相手を倒して帰ってくるはずなのたが……。
「!!?」
闘技場に目をやる俺は、魔術師団員の氷の弓を無数に受け、傷だらけのフロラディーテの姿が映る。
「くっ!!卑怯な!!」
苦悩の表情を見せるフロラディーテ。
相手の魔術師団の周りに数体のラッキーゴーストが囲んでいた。
「ぐふふ、お前がなぜかラッキーゴーストが苦手なのは調査済みよ」
魔術師団長アシヤドウマンが不敵に笑う。
「フローラ!あれを使え!!」
俺は彼女に声をかける。
彼女はこちらを向き「ハッ!忘れてた!」と言わんばかりの表情をしたあと、再び相手に向き直す。
「マスキ殿……感謝する。私はもう、昔の私ではない!輝け!シャインソード!!」
フロラディーテが剣を天高く掲げると、剣からまばゆいばかりの光が解き放たれる!
ラッキーゴーストは「ヒィィ……」と小さく泣きながら消え去った!
「これで……切れる!!」
スババァ――ン!!
「ぎゃぁ――!!聞いてないよ~!!」
魔術師団員は服のみ切り刻まれて裸になった!
「ば、バカな!!」
アシヤドウマンは椅子から立ち上がり、ワナワナ震えた。
「勝者!フロラディーテ!」
『ワ――!!!!』
「どうなっておる?」
オヤジーノが不思議そうに光る剣を見る。
俺は得意気に話した。
「猫の目がなぜ、夜に光るのか知っているか?あれは、ネコの目には網膜の後ろにタペタムという反射板が付いているだ。 網膜の視神経を刺激しながら入ってきた光を反射し、網膜に返すことで、わずかな光を2倍にして、暗いところでも鮮明に見えるようになっている。そのタペタムをフローラの剣に貼ったんだ」
フロラディーテが剣をブンブン振り回しながら帰ってきた。
「ははは!マスキ殿のおかげでラッキーゴーストも怖くない!私に切れぬものはないぞ――!!」
「しかし、そのタペタムという素材はどうやって手に入れたのだ?」
オヤジーノが剣を不思議そうに眺める。
俺は顔を作り、おどろおどろしく話し始めた……。
「それはな……数百の猫の目をくり貫いて剣に貼り付けたのだ……」
「ぎゃぁ――!!」
ブウゥン!!ザク!!
フロラディーテが投げた剣が俺の頬をかすめ柱に刺さる!!
「危ねぇ!!嘘に決まってるだろ!!死ぬかと思った!!」
「バカモン!!洒落にならない嘘などつくな!」
フロラディーテは剣を引っこ抜きながら、俺を叱った。
本当に洒落にならなくなるところだった……気をつけよう。
「ガハハ!次はワシの番だな!タイタニークに乗ったつもりで見ておれ」
「だから、それ沈没した船だって」
俺は軽くツッコミを入れたが、実際は安心していた。オヤジーノのほどの豪傑はいない。よく百人力という言葉があるが、まさにオヤジーノに百人がかりで挑んでも勝てぬだろう。
「勝者!魔術師団!!」
「すまぬ。負けた」
髪をポリポリ掻きながら秒でオヤジーノは帰ってきた。
「なにやってんだよ!!」
俺は心のまま怒鳴った!俺までまわさない約束だろ!
「相手が女でな。俺は女は殴れん」
案外、紳士だった!
「殴れないなら切れよ!剣士だろ!?」
俺がギャーギャー言っているうちに、ナルーシスが髪を掻き上げながら舞台へ上がる。
「まぁーまぁー、私に任せたまえ!華麗な剣さばきを見せて上げよう」
「ぐへへ!勝負だ!」
相手の魔術師団員はお風呂に1ヶ月入っていないような悪臭をさせながら舞台へ上がった。
「ふふふ……棄権する」
ナルーシスは汚いものが触れず棄権した。
俺は激怒する。
「なにやってんだよ――!!2敗になっちまったじゃね~か!あっ!あと1敗でうちの負けだ!負けたら俺、戦わなくていいじゃん!おい!団員A!わかってんだろ~な!」
「わかったでやんす!」
団員Aはスキップをしながら闘技場へ向かった。
スバァァ――ン!!
「1本!勝者!騎士団、団員A!」
『ワー!!』
「勝ったでやんす!」
団員Aはフロラディーテの指導を真に受け、毎日2000回もの素振りをすることで、剣の速度がS級クラスまで高まっていた!!
「なんでだよ――!!」
膝をつき、四つん這いで俺は悔しがった。
「こんなことになり、すまぬ!」
片膝をついて謝るフロラディーテ。
「まぁ、怪我しないように負けてこい!ガハハ!」
他人事のように笑うオヤジーノ。
「仕方ない、行ってくる」
これで2勝2敗……。俺は、覚悟を決めて闘技場へと歩みだした。
<つづく!>
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