第13話『24時間戦える兵士』【怖さ★★☆】
【騎士団VS魔術師団 王家演習場】
『ワー!ワー!ワー!』
満員の会場のボルテージが高まる。
王の計らいで入場料が無料になったため、庶民のほとんどが演習場に訪れたからだ。
「うむ。ワシも楽しみじゃ。勝った方を王家直属の近衛団に迎え入れよう」
王はロイヤルシートに座りご満悦の表彰でワインを嗜む。
【控え室】
「なんで俺がこんな試合に出なきゃならんのだ~!!」
【大将】マスキは控え室の中をグルグル周りながら愚痴をこぼす。
「マスキ殿!心配するな!我ら3人で勝負は決する!」
【先方】剣聖フロラディーテが申し訳なさそうにグルグル回るマスキを追いかけながら
「ガハハ!マスキよ!タイタニークに乗ったつもりでどっしり構えておけ」
【次鋒】副団長オヤジーノはおにぎりを食べながら高笑いする。
「それ!何百年前に沈没した船の名前だろうが!!」
「あはは!面白いでやんす」
マスキのツッコミに【副大将】団員Aが腹を抱えてわらう。
「団長と副団長と私がいれば負けることはあ~りません!因縁の魔術師団に騎士道精神の素晴らしさを教えてあげようではあ~りませんか!!うふふ、今日の私も美しい……」
騎士団エース【中堅】ナルーシスは鏡の前で自分の姿を眺めてうっとりしていた。
「あいつが一番心配なのだが、大丈夫なのか?」
マスキは小声でフロラディーテに話す。
「ナルーシスは性格はああだが、実力は間違いなく団員の中でも頭一つ出る。必ず勝つさ!」
フロラディーテの言葉に自信が乗る。
「フローラが言うなら信じるよ……はぁ」
ナスキは鏡の中の自分に話しかけているナルーシスに疑いの目を向けながらも、逃げることができない現実に溜め息をつくことしかできなかった。
「まったく……俺は昨日、本に夢中になり過ぎて寝不足だっていうのに……」
マスキは目頭を押さえる。
「なんじゃ?軟弱だのぉ!2、3日眠らないぐらいでは、なんともならんわ!ガハハ!!」
オヤジーノが豪快に笑う。
「……知らないのか?人間が寝ないとどうなるのか」
マスキはベンチに座ってオヤジーノに怖い顔を見せる。
「どうなるのだ!?」
マスキの隣に座ったフロラディーテは、目をキラキラさせながらマスキを見つめる。オヤジーノを見たマスキの顔が怪談小屋で話す顔と被ったようだ。
仕方なく、マスキは話し出す。
「昔、戦争をしている国がある実験をしたのさ『寝ないで24時間戦える兵士』を作るための実験を……」
【24時間戦える兵士】
その被験者の5人は敵対国の捕虜から選ばれた。
彼らにはこう、告げられた。
「30日間寝ないで起きていられたら解放してやる」
5人は個別に監視部屋で隔離され、30日分の食料と眠らないための覚醒ガスが24時間部屋に注がれた。
【5日目】
大声を上げたり、壁を叩いたりと少しの興奮状態は見られたが、さほど異常は見られなかった。
【7日間】
5人の被験者はブツブツ何かを言うようになった。何を言っているかは、聞き取れなかった。
【10日目】
5人の被験者達は監視用の隙間を自らの排泄物で塞いでしまった。驚いたのは個別に監視をしている5人がまったく同じ行動をしたということだ。
【15日目】
研究者達は監視部屋の中を確認するために、監視部屋を開ける決断をした。
ドンドンドン!!ドンドンドン!
研究者が監視部屋に近づくと被験者は扉を叩いて威嚇してきた。
「よ、よし!開けろ……」
ギィィ……。
「グワァァ――!!」
被験者が突如、飛び出し研究者に噛みついた!
「ひゃぁ!」
フロラディーテが悲鳴を上げる。
そのまま被験者は息絶えた。驚いたことに被験者の口周りは血だらけになっており、被験者の腹からは臓器が飛び出ていた。後でわかったことだが、どうやら被験者は自分の体を食べていたということだ。
「な、なんと!」
オヤジーノが腰をつく。
同様に5人中、4人が同じ症状で死んでいた。
「ひゃぁ!でやんす!」
団員Aが腰を抜かした。
生き残った1人に話を聞いた。
「どうなってる!何があった!?」
研究者は口の周りが血だらけの被験者を問い詰めた。
目の周りが痩せこけ、骸骨のような風貌に変貌していた被験者は、ゆっくりこちらを向いて答えた――。
「――私たちは、あなたですよ」
『ぎゃぁ――!!(でやんす)』
フロラディーテ、オヤジーノ、団員Aはビックリして大声を上げて腰を抜かした。
「……結局、狂気とは実験をした研究者のことだと言うことだ」
マスキは最後に説明を加えて話を終えた。
「30日間も鏡のない部屋に閉じ込められるなんて、考えられませ~ん!30日間も私(鏡の中の自分)に会えないではあ~りませんか!」
ひとり怖がらず、鏡を見つめているナルーシスを、マスキは(こいつが最強と言われる理由が少しわかった)と少しだけ彼を認めた――。
【王家演出場】
「さぁ!いよいよ始まりました『騎士団』VS『魔術師団』勝った方が王家直属の近衛団に任命されることが急遽、伝えられました!これは両団、負けられない戦いになった――!!」
『ワー!ワー!ワー!ワー!』
会場のボルテージは最高潮だ!
そして、戦いの火蓋が切って落とされた!
<つづく!>
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます