第5話『赤い女の子』【怖さ★☆☆】
「ガハハ!!団長がまさかそんなに怖がりだとは思わなかった!ガハハ!!」
オヤジーノの笑い声が応接間に響き渡る。
「俺もフローラ……フロラディーテさんが、まさか騎士団の団長で剣聖様だとは知りませんでしたよ~」
ソファーに座るマスキがうつ向いたまま顔を上げない私を見ながら話す。
「怖い話は……好きだ」
私は少しでも抵抗しようと呟く。
「しかし、怖がりがバレたくらいで「殺す~」はないであろう?」
オヤジーノが自慢の髭を触りながら首をかしげる。
マスキ殿は気を利かせて、私が腰を抜かしたり、お……お……オシッコを漏らしたりしたことは言わないでくれた。
「フロラディーテさんは、よく俺の怪談小屋に来ていただいていました。それが原因では?」
マスキがまた気を使ってオヤジーノに話す。
「おや?団長がサボりですか!これは団員に示しがつきませんなぁ~!ガハハ!!」
オヤジーノは、ここぞとばかりに大声で笑う。
「サボりとは無礼な!ちゃんと自由時間で行っておるわ!」
私はやっと顔を上げて、反論する。
「しかし、困ったのう。騎士団の次の任務は、例の幽霊屋敷の依頼なのだ。団長がこれでは……」
「え!?あの幽霊屋敷ですか?」
オヤジーノの話にマスキが食いつく。
「なんだ?そこは幽霊が出るのか?」
私は少し興味が出て、マスキに聞く。
「ええ……。あそこは……」
【赤い女の子】
その屋敷には赤い服を着た小さな女の子が他国との争いで亡くなった兄を探すために夜な夜な徘徊するらしい。
オニイチャン、ドコ~?オニイチャン、ドコ~?
「おい!本当に女の子の声が聞こえたぞ!?大丈夫なのか!?」
「大丈夫に決まってるだろ!ただの誰かの悪戯だろう?お前は本当に怖がりがだなぁ~」
二人組の男はライトニングで辺りを照らしながら興味本位で屋敷の中を進む。
オニイチャン、ドコ~?オニイチャン、ドコ~?
「ほら!やっぱり聞こえるって!!ヤバいよ!」
「うるさいなぁ!今、クローゼットにお宝がないか調べてるのだから、黙っとけよ!」
男はクローゼットの中をさばくる。
「お、おい!クローゼットの中、白い服しか入ってないぞ!!?」
「はぁ?それがなんだってんだよ!?」
オニイチャン……オニイチャン……オニイチャン!!
女の子の声が……だんだん大きくなる。
「女の子が着ている服って……赤色だって!!」
オニイチャン!!!!!!!!!!!
「――――!!?」
突如、大きな声で聞こえる女の子の声。
男達は恐る恐る振り向くと、そこには血だらけの服を着た女の子が立っていた――――。
オニイチャン……ミンナ、コロシタヨ!!!!
「きゃぁ――――!!!!」
私は大声を上げてマスキに抱きつく!
「フロラディーテさん!?」
「す、すまぬ!!」
すぐに離れる。
その様を見ていたオヤジーノが急にソファーから立ち上がる。
「そうだ!良いことを思いついた!マスキ殿、団長と一緒にその幽霊屋敷とやらに行ってもらえぬか!?」
「え!?俺が!?」
「オヤジーノ!何を言っている!一般人のマスキ殿を、そんな危険な場所に連れていけるわけがないだろう!」
「しかし、赤い女は兄を探して彷徨っているのであろう?どっちみち男は必要だ。かといって、こんなに怖がる団長を団員達に見られては士気に影響が出るわい」
オヤジーノはまだ震えている私を見ながらガハハ!と笑う。私は(コイツはいつか痛い目に合わそう!)と心の中で誓う。
「俺は構いませんよ。剣聖様が一緒なら安心だし、怪談のネタもそろそろ尽きそうだったので丁度いいです」
「マスキ殿……」
私は(マスキ殿が一緒なら……)と妙な安心感を覚える。マスキ殿の怪談話は本当におもしろい。喋り方、仕草はもちろん、蝋燭の灯りにぼんやり照らされたマスキ殿の真剣に語る顔が、私は好きだった。
……いや!決して異性として意識しているという意味ではなく、あくまで、その……雰囲気!そう!雰囲気が好きなのだ!
「では、決まりですな。気をつけていってらっしゃいませ」
オヤジーノが我々に丁寧に頭を下げる。
どうも、やっかいごとを押し付けられた感はあるが、もし私が怖がった時にオヤジーノが隣に居たら、うっかり八つ裂きにしかねん……。ここはマスキ殿のご厚意に甘えるとしよう。
「では、マスキ殿の……行こう!幽霊屋敷へ!!」
<つづく!>
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