第20話 失敗賢者は提案をする
あれから二日が過ぎた。
短い時間だが、オルダームではその間に大きな動きがあった。
ついに『金色の冒険譚』の牙城が打ち崩され、一位から転落したのだ。
ゴルデンの醜態をきっかけに、多くの冒険者が『金色』から離脱していった。
冒険者は横の繋がりが強く、噂はあっという間に広まる。
ゴルデンがルミナにした仕打ちも、尾ひれ背びれつきで一日で知れ渡った。
完全に、あいつの自業自得である。
「
とは、新たに第一位クランとなった『靭たる一団』の棟梁の弁である。
ちなみに解体したドラゴン素材は、半日を待たずに完売したそうな。
マジかよ。かなりの量の素材を採ってきたはずなんだがな。
やっぱヤベェわ、ドラゴン素材。需要と供給の釣り合いなんて永遠に無理だろ。
と、思っていたら、リュリからこんなことを言われた。
「おい、失敗賢者――、いや、レントの旦那。改めて
「へ、何が?」
「火山地帯で、ドラゴンを説得してくれたそうじゃねぇか」
「ああ、ラズブラスタな。話しやすいドラゴンだったぜ」
「あそこにあるドワーフの集落な、アタシの兄貴が住んでンだよ」
「おっと、マジかよ。そいつはまた……」
故郷でこそないが、それに近い場所ではあったのか。
「だからよ、
「いいってことよ。感謝してもらうためにやったワケでもねぇしな」
「礼は弾むぜ? 何なら、
「そういうのは冗談でもやめとけって……」
何言ってんだ、こいつ。と思いながら俺は肩を落とす。
「ま、アタシは本気で構わねぇんだが、な……」
「ん~? 何だよ。声が小さくて聞き取れなかったぞ」
「何でもねぇよ。じゃ、今後とも『靭たる一団』を
言うだけ言って、リュリは帰っていった。
そして俺も長年自宅代わりに使っている安宿へと戻る。
「戻ったぜ~」
「お帰りなさい、レントさん」
宿の食堂に顔を出すと、女性神官が俺を出迎えてくれた。
こいつは、ルミナに同行していたAランク冒険者の神官アリーシャだ。
「やぁ、戻ったのか。お疲れさん」
「お先にやらせてもらってるぜぃ~」
近くの席で、二人の男が顔をあげて俺を見る。
同じくルミナの仲間であった戦士ワーレンと盗賊のグレックである。
「……それで、ルミナは?」
軽く注文を済ませたあと、俺は何より先にそれを尋ねた。
グレックが視線を真上にやり、ワーレンが沈んだ表情で首を横に振る。
「今日も、出てきていません」
「そうかい」
ルミナと三人は、俺が魔像を倒したその日のうちに『金色』を脱退した。
そして俺は宿なしになったこいつらを自分の宿を紹介したのだ。
「ま、アルカがついてるから、万が一ってことはないだろうけどな」
「本当に、それについては助かったよ。ありがたい」
俺が肩を竦めると、ワーレンが軽く笑みを浮かべる。
ルミナは、自分の部屋に閉じこもっていた。唯一入れるのがアルカだけだ。
「アルカの胸で大泣きしたからな、あいつ。それで気を許してるんだろう」
「まぁ、ふさぎ込みたくもなるよねぇ。何せひどい扱いだった」
運ばれてきた肉の焼き物を軽く一つまみして、グレックがそんな風にぼやく。
ゴルデンのルミナに対する態度と言動は、もう思い出したくもない。
第三者である俺ですらそうなのだから、ルミナ当人が受けたダメージはどれほどか。
「あの子はゴルデンさんに憧れていましたから、ショックも大きかったでしょうね」
「憧れてた、ねぇ……」
それって、もしや俺があいつに聞かせた話が関係してたりするのだろうか。
だったらルミナが今こうなっていることの遠因、俺じゃん……。
「二日も休めば、気分も多少落ち着いてるだろ。俺が行ってみるわ」
「すまない、レント。おまえもこれから忙しくなるだろうに」
ワーレンが俺に礼を言ってくる。
俺とこの三人は友人と呼ぶほどではないが旧知の仲ではあった。
「そうだなぁ、何せ俺、Sランクだしなぁ」
「言ってろ言ってろ、インスタント高ランクが」
軽口を叩くと、グレックに軽口で返された。何だインスタント高ランクって。
「けど、ルミナは親戚だからな。まずは俺ががんばってみるさ」
そう言って、俺はルミナがいる宿の二階へと上がっていく。
「あ、旦那様。お帰りなさいませ!」
階段をのぼり切ったところで、ルミナの部屋から出てくるアルカを見つけた。
「ああ、ただい――」
アルカの顔を見た瞬間、脳裏に何故かチビ棟梁の顔が浮かぶ。
そして、俺は感じる必要などないはずの罪悪感に駆られて、一瞬言葉に詰まる。
「……旦那様?」
「いや、何でもない。……何でもないです」
不思議がるアルカに、俺は誤魔化すようにしてその頭を撫でてやった。
アルカは嬉しそうにはにかんで、俺に身を寄せてくる。
「あー、で、ルミナは?」
「変わらず、お部屋にいらっしゃいます。今日も、お食事の方は、まだ」
二日間、メシも食わず、か。やっぱり重症だな、こいつは。
「俺は、入って大丈夫か?」
「…………」
尋ねると、アルカは静かに目を伏せた。つまりはそれが答えなのだろう。
「入らない方がいい、か。……う~ん」
俺は腕を組んで考える。さて、どうしたものか。
極論、俺がここで骨を折る必要はないのだが、かといって見放すのも違う気がする。
ここでルミナを見放したら、俺はゴルデンと何も変わらなくなってしまう。
「あの、旦那様」
考え込んでいると、アルカが話しかけてきた。
「ん、どうしたアルカ。何か気づいたことでもあるのか?」
「はい、一つだけ」
ふむ、何かあるなら聞いておこう。
突破口ってやつは、どこに転がってるかわからないモンだからな。
「ルミナさんは、かなり大賢者に傾倒しているようです」
「ああ、なるほど。でもそれは俺も知って……」
――いや、待てよ。
「なぁ、アルカ」
「はい?」
「大賢者ってさ、自分のこと大好きだよな。超究極何たらとか建てるくらいだし」
「そうですね。超究極大賢者博物館は、まさに自画自賛の産物ですし」
「もしかしてだけどさ」
「はい」
「大賢者がこれまでやってきたことが記録されてる場所とかもあったりする?」
「ありますよ。というか、います」
…………います?
「大賢者の功績を称える伝承を受け継ぐ、超究極大賢者保存記録伝承担当種族が」
「しゅぞく!!?」
待てや、エルシオン。知的生命体まで完備してんのかよ!?
「あ、私と同じ生体ゴーレムですよ。寿命もありますし、生殖能力もありますので、事実上、人類や亜人さん達と同じで一個の種族として成立してますけど」
「そういうのは普通に生物っていうんですよ、アルカ君」
恐るべき事実を知ってしまった。
だが、その知識を得たことで、俺の中の閃きが具体性を増していく。
「よし」
アイディアが形となったのを感じ、俺は決意した。
「ルミナを、エルシオンに連れていこう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます