第13話 失敗賢者はお礼を受け取る
捕縛したガルトと他の連中をどう扱うか。それが問題だ。
「このままここに放置してよいのではないでしょうか」
人差し指をピンと立てて、アルカが俺に提案してくる。
君、顔に似合わず微塵も容赦がないのね。ここ、ドラゴンの生息地帯っすよ。
「旦那様を失敗作失敗作と、失礼にも程があります」
あ、そこ怒ってくれてたんだ。ちょっと嬉しい。
「でも、そういうワケにもいかねぇんだよ」
俺は唇を尖らせて、渋い顔をする。
そりゃあ本音を語れば、俺だってこんな連中とは金輪際関わりたくもない。
だが、どうにもこいつらの背後関係はキナ臭いものがありそうだ。
ギルドに突き出す必要がある。つまり、オルダームに連行しなきゃならない。
「旦那様、エルシオンに転送してはいかがでしょうか」
「却下。こんな連中を、あんなトコに置いておけねぇだろ……」
それは、一瞬考えないでもなかったが、さすがに厳しいだろう。
だってそこかしこに神実が生えているような場所だ。悪党に餌与えてどうする。
「それなのですが、エルシオンには超究極大賢者隠し地下ダンジョンVol.42冥界地底牢獄というものがあります。そこに収監するのはいかがでしょうか」
「…………それは、何?」
俺は、思わず真顔になって聞き返してしまった。
「大賢者が建造した、探索ごっこ専用地下隠しダンジョンです。エルシオンの地下にいっぱいあります」
いっぱいあるんだ……。しかも、隠せてない。
「Vol.42冥界地底牢獄は、その名の通り冥府の牢獄がテーマとなっておりまして、大賢者自らが創造した多数の『囚人型生体ゴーレム』が常に「出してくれ」、「殺してくれ」と訴え続けている、雰囲気満点のダンジョン型アトラクションです!」
果てしなく陰湿なモンこさえてんな!?
「大賢者は、建造の際に『囚人型生体ゴーレム』の外見を家族や知人に似せることで、ゴーレムが哀れにも自らの死を望み乞い願う様を牢屋越しに見つめていると、その日は心が安らいでよく眠れるようになる、と言っておりました」
根深い病み方をしてらっしゃる……。
「そっか、大変だな、大賢者」
前世の我がことながら、あまり触れないことにした。単純に怖い。
しかし、そういう場所があるのなら、確かに連中を突っ込んでおくには最適か。
「ちなみに、その『囚人型生体ゴーレム』ってのは、暴れたりはしないのか?」
「はい! 大丈夫です! 安全性テストは満点でクリアしていますので、近づいてもただ泣きながら縋りついて「出してくれ」、「殺してくれ」と訴えてくるだけです!」
そっか、じゃあそれでいっか!
悪党連中にゃ安心安全にちょっとした精神的拷問を受けてもらおう!
『話は終わりましたか、レント』
「ああ、終わったけど。どうかしたかい?」
アルカに転送を頼んだあとで、ラズブラスタが俺に話しかけてきた。
『おまえに、お礼をしなければなりません』
「お礼? ああ、いいよいいよ。元々、こっちの身内のしでかしだしな」
身内とも思いたくないが、実際、親戚だからなぁ。血の繋がりは断てんよね。
『いいえ、レント。おまえは私を助けてくれました。私はそれに報います』
「別にいいんだが……、いや、受けるよ。それでおまえの気が済むなら」
俺がそう返すと、律儀なエルダードラゴンは軽く目を細めた。
すると光が瞬いて、上からフード付きのマントがヒラリと舞い落ちてくる。
「おっと」
俺は右手を伸ばし、それを掴み取った。
新品の煉瓦を思わせる赤茶色のマントで、触るとわかるが、布ではなく革製だ。
「こいつが、お礼なのか?」
『その通りです。それは、私の保有する宝の一つで、私の翼を素材としています』
お~い、ちょっと待て。
それって、もしかしなくてもとんでもないお宝なんじゃ?
『そのマントは、大抵の火と熱を遮断します。また、念を込めて魔力を流せば表面上に防護結界を展開して身を守ることもできます。か弱き人間には有用な装備でしょう』
あ、はい。確定ですね。
とんでもなさすぎるお宝だよ、これ。有用過ぎて値段とかつけられないたぐいの!
「……お礼というには豪華すぎないか、いくら何でも」
『そんなことはありません。おまえは私の子のために、本気で怒ってくれました。私はおまえに、本当に感謝しているのですよ』
う、ぬぐぐぐぐぐ……。
そんな真正面から感謝をぶつけられると、何だか気恥ずかしくなってくる。
「旦那様。ラズブラスタさんもああ言ってますし。……ね?」
アルカにも促され、辞退するという選択肢はこれで消えた。
ああ、そんな風に言われたら、受け取るしかねぇだろ。……でもなぁ。
「いいのかね、俺なんかがこんないいモノを受け取っちまって」
『卑屈になってはいけませんよ、レント。おまえが何者であろうとも、私の卵を取り返してくれた事実は決して変わることはないのです』
ああ、わかったよラズブラスタ。確かに、おまえの言う通りだ。
そう思った俺は、受け取ったマントを身に着け、具合を確かめてみる。
「……意外だな。涼しい」
体感の気温が明らかに下がった。マントが辺りの熱を遮断してるから、か。
『よく似合っていますよ、レント』
「はい! 素敵です、旦那様! 今のお姿を彫像に残して展示したいくらいです!」
やめろやめろやめろやめろ!?
そんなことされたら恥ずかしすぎて外歩けなくなるだろうが!
『――最後に、これを』
ラズブラスタが言うと、俺の『光魔の指輪』に赤い光が灯る。
よく見ると、鈍い銀色のリングの表面にごく小さい真っ赤な宝石が見てとれた。
『その指輪は面白い性質を有しているようですので、私の力を分け与えました』
「おいおい、マントもらった上にそんなモンまで? いいのかよ?」
『それは、私とおまえの繋がりを示すものです、レント。もし何か困ったことがあれば、指輪に念を込めて、私を呼びなさい。そのときには一度だけ力になりましょう』
「はぁ……。わかったけど」
さすがにもらいすぎな気もするが、ここは受け取っておくことにしよう。
そして、ラズブラスタがその翼を大きく広げ、空へと舞い上がる。
『私は巣に戻ります。レント、アルカ。またいずれ、会うこともあるかもしれません。それまでどうか元気で。それでは、さようなら』
それだけ言って、ラズブラスタは飛び去って行った。
俺とアルカは、その巨体が影になって見えなくなるまで手を振り続け、見送った。
「帰るか。俺達も」
「はい、旦那様」
転がってるガルト他をアルカに転送してもらって、俺達も帰路に就く。
ドラゴン素材の収集依頼に来てみれば、身内絡みのとんでもない事態に遭遇したが、何か最終的には俺にとって得しかない結果に終わった気がする。
「さぁ、帰るぜ。オルダームに!」
――実は焔帝竜とワーヴェル家の話はもう一幕あるのだが、それはまた別の話だ。
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