第12話 失敗賢者は叩きのめす

 襲いかかってくる人数は、ガルト以外に四人。

 前に二人、後ろに二人、わかりやすい前衛と後衛の配置。動きにも淀みがない。


 明らかに訓練されている者の身のこなし。

 しかし、俺はそこに違和感を覚える。この連中、本当に冒険者なのか?


「おい、ガルトの叔父さんよ。あんた、バックに誰がついてんだよ!」

「うるさい、失敗作! これから死ぬおまえには関係ないわ!」


 ったく、口が減らない。

 俺を殺すだなんだと息巻いてたクセに、ちゃっかり後ろに退がってんじゃねぇよ。


 と、思っているうちに、前の剣士二人がグンと間合いを詰めてくる。

 加えて、後方の二人も手にした杖に魔力の輝きを漲らせ、攻撃準備中か。


「旦那様!」

「大丈夫、俺がやるよ」


 アルカを後方に下がらせて、俺は自ら一歩前に出た。

 そこで、これまでほぼ同時同一だった前衛二人の動きに、若干の差が出る。


 右の剣士が大きく踏み出して剣をコンパクトに振りかぶる。

 対して左の剣士は、歩幅を狭くして上体を深く沈め、頭を低くする。


 これは――、立体時間差攻撃、か。


 左右の二方向から攻めて、前後、上下と差をつけた、二段攻撃。

 さらにはご丁寧に、右の剣士は振り下ろし、左の剣士は横薙ぎの構えを見せる。


 受ける側は、当然双方に対処しなければならない。

 しかし、左右前後上下、タイミングと攻撃の軌道までもが微妙に食い違わせている。


 敵は、こっちに択を強いているのだ。

 右に避けるか、左を防ぐか、イチかバチかで両方への対応を選択するか。

 だが多分、前二人を防げたとしても、次の瞬間には後衛の魔法の餌食にされる。


 なるほど、隙がない。こいつはなかなかのコンビネーションだ。

 けど、悪いな。

 今の俺にとっちゃあ、そう大したモンじゃないんだよ。


 俺は正面を向いたまま、右手を軽く挙げ、左手を下げた。

 攻め手から見れば、両腕を使って左右の剣を防ごうとしているようにも映るだろう。


 そしていよいよ、二人の敵剣士が俺に肉薄する。

 振り下ろしと横薙ぎと、繰り出される二つの斬撃を、だが俺はしっかり受け止めた。


「むぅ!?」


 右側の剣士がうめき、目を剥く。

 まぁ、いきなり自分の一撃が光の剣で受け止められたら、驚きもするか。

 俺は両手にそれぞれ光の剣を生み出し、その双剣で斬撃を受けたのだ。


 二人の剣士が、即座にその場から飛び退く。

 あー、対応された場合もしっかり想定済みなワケね。はいはい。


 これで確信した。

 こいつらは冒険者じゃない。


 こんな緻密な構成の連携攻撃、相当な訓練が必要だ。

 そして訓練には、時間と設備と資金が必要。――こいつら、兵士か軍人だな。


 さて、時間がない。

 剣士二人が下がって、ここから魔法攻撃が来る。


 敵はすでに詠唱を終え、いつでも魔法を撃てる態勢。

 さすがに、このままでは俺の方が後手となってしまう。――ならば!


 行動選択決定。

 俺はその場から全力で跳躍した。


「と、跳んだァ――――!?」


 ガルトの驚きが、ちょっと気持ちいい。

 空中高く舞い上がった俺に、敵の魔術師×2が魔法を放つ。


 先程より大きな火球と、これまたデカイ氷柱の弾丸。

 俺はそれを、光の弓矢を形成して落ちながら迎撃する。


 光の矢に撃ち抜かれ、火球と氷柱が炸裂。場に炎と冷気とを撒き散らした。

 そして、煙と霧が派手に広がって、敵の目から俺の姿を覆い隠す。


 俺からも敵が見えなくなるが、気配はしっかり感じられる。

 その、気配の在り処に向け、俺は四度、光の矢を打ち放った。


「ぐおぉ!」

「がッ……!?」


「うぁ!」

「な、ァ!!?」


 手応えは四度。声も四つ。

 俺が地面に降り立てば、矢に肩や足を射抜かれてうずくまっている、四人の姿。

 動くのに必要な関節や腱をピンポイントで貫いたので、戦闘続行は不可能だ。


「旦那様、すごいです! 御見事です!」


 褒めちぎってくれるアルカに、ちょっと面映ゆいものを感じながら、手を振る。

 そして俺は、剣を持ったまま棒立ちになっているガルトを睨みつけた。


「な、な……?」


 目の前で起きたことが何一つとして理解できていない。

 まさにそんなツラをしているが、一応はBランク冒険者だろうが、あんた。


「さて、叔父さんよ。卵、返してもらおうか?」

「う、うゥ……ッ」


 俺がにじり寄ると、ガルトは懐を庇うようにして両手で胸を押さえた。


「なるほど、卵はそこか。アイテムボックスか何かだな」


 さらに歩み寄る。

 ガルトは顔を青くして、その場に尻もちをついた。


「な、何だおまえの強さは……? 本当に、あ、あ、あの失敗作なのか!?」

「レント・ワーヴェルであることに、間違いはねぇな」


 誇るでもなく、俺はそう返す。

 今の俺のステータスは努力で手に入れたものではない。


 しかし、武器の扱いや戦い方は自己研鑽によって身に着け、磨いてきたものだ。

 それについては、誰にも異論は挟ませない。これは、俺の強さだ、と。


「わ、わしを誰だと……! わしは大賢者の末裔……」


 ガルトはまたしても寝言を抜かすが、それに耳を傾けるつもりはない。

 俺は最後通牒を突きつける。


「卵、返せよ。叔父さん」

「ダメだ、この卵はわしの卵だ! わしの名誉を、地位を、え、栄光を約束――」

「親から子供奪おうとするド外道が、夢見てんじゃねェェェ――――ッ!」


 叫んで、俺はガルドの顔面に前蹴りをくらわせた。


「げはァァァァァァァァァァ――――ッ!?」


 顔の真ん中に靴底の跡をつけて、ガルトが吹っ飛んでいく。

 あ~、スッとした。やっとストレス発散できた。

 それからすぐ、俺はガルトに駆け寄って、懐から小型のバッグを取り出す。


「あったぜ、ラズブラスタ!」


 俺の手のひらに乗るくらいの、小さな小さな、白い卵。

 淡い光を放つそれを高く掲げて示すと、ラズブラスタは再び俺にうなずいた。


『おまえの行ない、確かに見届けましたよ。レント』


 伝説のエルダードラゴンは、俺の名前を覚えてくれたようだった。

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