第8話 失敗賢者は専用武器を手に入れる
ヤベェ。
四匹目仕留めたら、槍が逝った。
やり方は一匹目から変えていない。
だが四匹目の脳みそをブチ貫いたとき、槍が真ん中からくの字に折れ曲がった。
「……あれ、使い方が悪すぎたか?」
グンニャリ曲がった槍を持ったまま、俺は苦い顔をする。
「いえ、これは単純に、槍の強度が足りていないだけだと思います」
四匹目のドラゴンを転送しながら、アルカがそう分析する。マジかよ。
「ドラゴンに対してではなく、旦那様に対して槍が脆弱だったのではないかと」
「俺に対して、か……。嬉しいような、でも複雑だな、これは」
俺は軽く頬を掻く。
それってつまり、俺が今の自分の力を使いこなせてないってことだよなぁ。
さて、どうしたもんか。
この方法が一番ドラゴンを傷つけずに済むんだけど。
槍以外の武器も支給してもらっちゃいるが、損傷が大きくなるのは美味くない。
どうせなら、あのチビ棟梁に最高の状態で素材を届けたいからなぁ。
「う~ん……」
「旦那様、旦那様」
俺は腕を組んで悩んでいると、アルカが俺の袖をクイクイ引っ張ってくる。
「あの、これは使えませんでしょうか」
そう言って、彼女が俺に見せてきたのは、鈍い銀色の指輪だった。
「……こいつは?」
「エルシオンの超究極大賢者博物館の収蔵品の一つです」
ちょう、きゅうきょく……、何?
「大賢者が、自分の作品を見て悦に浸るために建造した、自分自身専用博物館です」
「俺の前世は頭いいはずだけどバカだな」
どんだけ承認欲求と自己愛を拗らせたら、そんな恥ずかしいモン建てられるんだ。
あれ、そういえば――、
「俺の前世のこと、様づけで呼ばないんだな」
前は、ちゃんと様をつけて呼んでたのに。
俺がそれを指摘すると、アルカはちょっと頬を赤くして、身を縮こまらせる。
「わ、私の今のマスターは、旦那様だけですから。……ダメ、ですか?」
ええい、その、ちょっと不安げな上目遣いをやめろ。
抱きしめたくなるだろ! あと、言ってることは大いに許す!
「ダメじゃない。すげぇ嬉しいよ、アルカ」
「はい! 旦那様に喜んでいただけて、アルカもいっぱい嬉しいです!」
アルカが、本心から嬉しそうにピョンと跳ねる。
薄いシャツ一枚でそれをやられると、こう彼女の胸が、上から下にたぷん、とね。
「はい、話戻そう! で、その指輪は?」
イケナイ気分になる前に俺が力業で話を進めると、アルカもハッとする。
「これは大賢者が創造した魔法道具の一つで『光魔の指輪』といいます」
俺はアルカから指輪を受け取るが、小さいな。はめられないかも。
と、思った次の瞬間、指輪の大きさが変わる。サイズ調整機能付きかぁ。
「左手の人差し指にはめてみてください」
「こうか?」
言われた通り、俺は指輪を左手の人差し指にはめてみた。
「次に、何か武器を一つ、念じてみてください」
念じる、ね。
地面に転がした壊れた槍を見下ろして、俺は壊れる前のそれを想像する。
ヴン、と音がして、俺の目の前に青白い光が瞬いた。
「うぉ!?」
驚くと、何かの形を取りかけていた光は霧散し、散っていく。
「……な、何だ、今の?」
「今のは、光の武器が発生しかけていたんです」
「光の、武器……? あ、もしかして――」
半ば察した俺に、アルカもうなずく。
「そうです。その『光魔の指輪』は、使用者の魔力を対価として、念じた通りの形状の光の武器を形成できるのです。例えば今なら、旦那様が念じた武器ですね」
「じゃあ……」
俺は、改めてイメージを描き、念じてみる。
するとまたヴヴ、と軽く震えるような音が鳴って、俺の右手に光の剣が発生する。
光の剣は、次に槍に形を変え、さらに斧に、そこから短剣に変わっていく。
「うわ、便利……」
「威力も、試してみたらいかがでしょうか」
「うん。そうしてみるわ」
俺は、近くに転がっている黒い大岩に目を付けた。
この辺りの岩は、ドラゴンのブレスにも耐えるほどの強度を誇っている。
右手に形成した光の剣を、俺は一気呵成に大岩に叩きつけた。
「てりゃ!」
叫びののち、激突音くらいはあるかと思ったが、そんなものはなかった。
少しも抵抗も覚えずに、光の剣は上から下にスルリと振り抜かれる。
そして、一拍の間を置いて、大岩は剣の軌道の通りに斬り裂かれて転がった。
「御見事です、旦那様!」
アルカが拍手を送ってくれるが、いや、ちょっと尋常じゃないですよ、こいつは。
斬った大岩の断面がツルッツルしてる。磨くまでもなく鏡に使えそう。
「『光魔の指輪』が形成する武器の威力は、使用者の魔力の強さに比例します。つまりそれだけ旦那様の魔力が強いということですね。アルカも鼻が高いです!」
「あー、うん。ありがと……」
驚きすぎて感情がなかなか戻ってこず、反応が淡泊になる俺であった。
「旦那様は複数の武器を扱えるとのことでしたので、これでしたら相性が良いのではないかと思い、選ばせていただきました。お気に召したのでしたら、何よりです」
「ああ。本当に使いやすいよ、ありがとうな。アルカ!」
俺がアルカを撫でると、彼女ははにかんで「エヘヘ」と笑った。可愛い。
さて、こうして壊れない武器も手に入れたことだし、張り切っていきますか!
――と、そんな感じで、俺はリュリからの依頼を達成したのだった。
え? 描写がない?
だって、あとはもうジャンプして槍で脳みそブスーの繰り返しでしかないし……。
ちょっとやりすぎて、仕留めたドラゴンの数が百を超えてしまった。
けど、ま、いいでしょ。
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