第一章 一話

 「ごめん、待った?」

いつもの待ち合わせ場所について僕はそう言う。今日は先についたと思ったのにな。そう思いながら顔を上げた先には彼女の彩華がいた。

「ううん、全然。今着いたところだよ。」とほほ笑んだ。

僕は知っているぞ。彩華はどれだけ早くついてもこう言うことを。付き合って三年たち、デートもたくさん行っているのに僕が彩華より早く着いたことはない。同時ならあるがほぼ彩華が先について待っている。男としてそれはどうなのかと自分でも思うが彩華がそれを気にしないため、自分にもその考えがしみついてしまっている。

次こそは彩華より早くつけるようにしよう。そう思いながら僕は彩華の手を取った。

 



 今日はただ夜ご飯を食べに行くだけだ。三年も付き合っていたら気を遣わずに接することができるようになったと思う。行く場所もよくあるファミレス。場所がどこであれ一緒にいれるだけで僕はうれしいのだ。

おいしいご飯を二人とも食べ少し落ち着いてから僕は本題に入る。

「あのさ、彩華」

それを聞いた彩華はこっちを見て

「どうしたの大樹?あ、大樹もデザート食べたくなった?ほれほれ~頼んじゃえ!」彩華はこういう察しが悪い時がある。そんなところもかわいいのだけれど。

「大事な話があるんだ。」

彩華の顔から笑顔が消えた。

「もしかして…別れ話?急だなぁ」

明らかに落ち込んだ顔をした彩華。違うってそんな顔をさせたいわけじゃない。

「そうじゃなくて…」と食い気味に否定したら彩華は笑って

「だよね。大樹は私のこと大好きだもん。」といった。

なんでも見透かしているような彼女が面白くて笑った後僕は言った。

「僕たち同棲しない?」

彩華は嬉しそうに

「ほんとに!いいの!」といった。

「そろそろいいかなって。でも自分で先に決めないで彩華の意見も聞きたかったから。」

そう言うと彩華は笑って

「うれしいよありがとう!」と言った。

 


 そのあとは忙しかった。部屋を探したり、親への報告。親は両方とも付き合っていることを知っているので快く承諾してくれた。あまりいき過ぎないようにとは言われたが。

大学から程よく近いところで学生でも借りられるところなど条件は結構あったがなんとか部屋を決めることができた。



それから僕は彩華をデートに誘った。お互いにバタバタしてて会うのは二か月ぶりだ。大学では見かけることもあったが二人で会うのとは別。やっと今日会うことができる。明日は一緒に部屋の契約をしに行くのだがその前に会おうということになった。僕はそこで彩華にプロポーズをするつもりだ。いやすぐ結婚をするわけではない。結婚は大学を卒業してからだな。まあ要するに婚約だ。今日のためにお金をためて買った指輪。本物は結婚の時にあげるから、などと確認しながら僕はいつもの待ち合わせ場所に向かった。

僕たちはいつもこの時計台を待ち合わせ場所にしている。駅から離れたところだが人通りもある。高校生のころから変わらない待ち合わせ場所に僕はついた。彩華はいない。やっと先につくことができたと喜びながら時計を見た。今は17時。待ち合わせは18時だ。彩華がいるわけがない。彩華よりも早く着くという気持ちと緊張が重なってこんなに早くついてしまったのだろう。それもそうだ。今日はプロポーズに加え場所が場所だ。普段いけないような高級なお店を選んだ。服装だって選ぶのに時間がかかった。彩華には何も伝えてないが彩華はいつもきれいな服装なので大丈夫だろう。そう思いながら待つことにした。

僕たちは普段待ち合わせの時にあまり連絡を取らない。家を出た連絡もついた連絡もしない。たまに僕が遅れるときにするくらいだ。彩華は遅刻なんて一回もしたことがない。

18時になっても彩華は来なかった。彩華にしては珍しいが少し遅れているのだろう。お店は19時予約している。全然まだ間に合う。僕はもう一度彩華に言う言葉を考えていた。何がいいだろう。僕と婚約してくれ、だと普通過ぎるか?昨日から考えているがいいものが浮かばない。


18時半になっても彩華は来ない。普通の人なら良くあることだと思うが彩華は異常だ。電話をしてもつながらない。今向かっているのだろう。お店に遅れるという連絡をしなければ___


遅い。遅すぎる。さすがに不安だ。彩華が一時間も遅刻するなんてありえない。彩華の家へ行こう。もしかしたら僕のことが嫌になったのかもしれない。そう歩きだしたときスマホが鳴った。

彩華かもしれない。僕はすぐに見た。彩華のお義父さんだった。嫌な予感がした。

「もしもし」震えながら僕は電話に出た。

「大樹君であってるかな?落ち着いて聞いてほしい__」



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君の記憶の欠片 ゆき @yuki_29716688

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