連続ささくれ事件

津多 時ロウ

連続ささくれ事件

「うわあああああ!」

「やあ、起きたかね」

「は!? あれ? 夢か……」

「おやおや、恐い夢でも見たのかな。良ければその内容を私にも教えてくれないか?」

「はい。……あ、いえ、何か恐い夢を見たような気がするんですけど、思い出せなくなっちゃいました」


 僕の名前はほしあきら

 東京の大学生だ。

 その東京の大学生の僕は、ひょんなことから出会った名探偵・黒沼先生の黒沼深偵事務所で月に何日かアルバイトをしているのだが、今日はどうしたことか、群馬県の首都である高崎市の事務所に着くなり、ソファーで爆睡しまったらしい。


「あ、その封筒。また群馬県警から捜査協力のお願いですね」

「そうなんだよ、睲くん。事件が多くて困っちゃうよね」

「黒沼先生。僕の名前は星ですよ。やだなあ、忘れちゃいましたか?」

「君の名前は睲朋だよ何を言っているんだい?」

「あれ? そうでしたっけ?」

「そうだよ。それに俺の名前は墨沼で、黒沼深偵事務所じゃなくて墨沼探偵事務所だよ。君こそ間違えないでもらいたいね」

「そう言われれば確かにそうでしたね。どうもすみません。……いやいやいや、おかしいですって。大体その名前、なんて読むんです?」

せいほうくんだよ。寝ぼけているんだね。可哀想に」


 そうか。僕の名前はせいほうだったのか。今度はしっかり覚えたから大丈夫だ。なにかおかしい気がするけど、多分僕の気のせいに違いない。


「ところで、墨沼先生。今度はなんの事件なんですか?」

「ふむ。郡馬県警から贈られてきたこれを見たまえ」


 そう言って墨沼先生はソファーの横のローテーブルに写真を並べた。その数、ざっと十枚。


「俺が確認したところで、この被害者たちにはある共通点があったんだ。試しに見つけてみようか、睲くん」

「うーん、なんですかね。写真だけで分かることですか?」


 ざっと見たところ、性別も年齢もバラバラなら、服装もバラバラである。共通点など人間であることと両手の甲をカメラに向けていること、それから生きていること以外にはありそうにない。

 そんなことより、僕は先生が持っている大きな封筒の方が気になってしょうがなかった。


「その大きな封筒から覗いている小さい封筒。それってもしかして怪盗Kからの挑戦状じゃないですか?」

「はっはっはー。君は目敏いなあ。いい傾向だが、残念ながらハズレだ。これは怪盗kからの挑戦状なんだよ」

「あー、そうなんですか、怪盗kの方でしたか」

「ところで睲くん、共通点は見つけられたかな?」

「むむむ……、分かりません。ギブアップです」

「君なら見つけられると期待したんだけどな。まあ、いい。正解は」

「正解は!?」

「みんな、ささくれがある」

「細か!」

「はっはっはー。郡馬県警が言うには、名付けて連続ささくれ傷害事件だそうだ。でもね、ささくれといっても、バカには出来ないんだよ」

「ていうか郡馬県警ってなんですか。群馬県警じゃないんですか?」

「何を言っているんだい。群馬県は日本から独立して郡馬県になっただろ?」

「まじっすか」

「まじっすよ。あ、でも、今度練馬県に変えるって言ってたような」

「馬なら何でもいいの!?」

「まあまあ、それはさておいて、ささくれなんだけどね、ほら、俺の左手の人差し指にも丁度ささくれがあるだろう?」

「はあ、まあ、確かにありますね。それがどうかしましたか?」

「これをめくるとどうなるか、君は知ってるかい?」

「たまに血が出て痛いです」

「君はまだまだだな。まだまだささくれ初心者だよ。そんなんじゃいつまで経っても一人前のささくらーにはなれないし、ささくらーチャンピオンやささくらーマッチョなんか夢のまた夢だぞ。俺が手本を見せるから、よく見ておくといい」


 墨沼先生はそう言って、右手の親指と人差し指でそのささくれを摘まみ、少しずつめくり始めた。

 やがてそのささくれの下から現れたのは――


「うわあああああ!」

「やあ、起きたかね」

「は!? あれ? 夢か……」

「おやおや、恐い夢でも見たのかな。良ければその内容を私にも教えてくれないか?」



『連続ささくれ事件』 ― 完 ―

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連続ささくれ事件 津多 時ロウ @tsuda_jiro

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