第10話『美人担任教師 in 休日カフェ』
4月28日、日曜日。
3連休の2日目。
今日は午前10時からゾソールでバイトをしている。今日のシフトは午後6時までの8時間だ。今日のように翌日も休日のときは、一日中シフトに入ることがある。
日曜日だし、朝からよく晴れているからだろうか。今日もシフトに入った直後からたくさんのお客様に接客している。また、連休2日目なのもあってか、いつもの日曜日以上に多くのお客様が来店している気がする。大変だけど、明日、藤原さん達がうちに遊びに来てくれるのを糧にバイトを頑張ろう。
また、琢磨と吉岡さんにも明日うちに来るかと誘ったけど、デートの予定があるからと断られた。2人にはデートを楽しんできてほしい。
途中、何度か休憩を挟みながらバイトをしていく。
藤原さんから休憩中にメッセージが来て、午後に星野さんと神崎さんと一緒に来店してくれるらしい。そのことで、今日のバイトをより頑張れそうだ。あと、藤原さん達は買い物などを楽しめているといいな。
カウンター業務を中心に仕事をしていく。
そして、お昼過ぎの時間に差し掛かったとき、
「こんにちは、白石君。バイトお疲れ様」
俺が担当しているカウンターに……担任教師の山本飛鳥先生がやってきた。ロングスカートに半袖のブラウスというシンプルでラフさを感じられる格好だ。だから、担任教師だけでなく、少し年上のお姉さんのようにも見える。
「ありがとうございます、山本先生」
山本先生に目を合わせてお礼を言うと、先生は優しく微笑んだ。
「今日はバイトのシフトに入っているのね。白石君がいるときに来られて良かったわ」
「嬉しいですね。俺も先生が来てくれて良かったです。少し疲れが取れましたから」
「それは良かったわ」
そう言うと、山本先生の口角が上がった。
「今日もコーヒーや紅茶を飲みながら本を読みに?」
山本先生の自宅はゾソールの近所のマンションにあるので、放課後や休日にゾソールに来店する。休日にはコーヒーや紅茶を飲みながら店内で小説や漫画を読むこともあるのだ。また、俺はこれまでに先生にたくさん接客している。
「ええ。昨日、アニメイクで美麗なイラストが表紙のBL小説を買ってね。せっかくなら、大好きなゾソールのドリンクを飲みながら読もうと思って」
弾んだ声でそう言うと、山本先生は持っているショルダーバッグから文庫本を取り出す。その本の表紙には……イケメン2人が描かれている。先生の言う通り、美しい絵柄だ。
山本先生は国語教師なので、教科書に載っているような文豪の作品や芥川賞や直木賞、ベストセラーになっている文芸作品も読む。ただ、それ以上にBLやGLを含めた恋愛やラブコメ系を中心に小説やラノベ、漫画が大好きでよく読むのだ。また、恋愛系や女性主人公のファンタジー系などのアニメもよく見る。
「先生のおっしゃる通り、美麗なイラストですね」
「そうでしょう? ここである程度読もうと思っているわ」
「そうですか。では、店内のご利用ということで」
「ええ。アイスコーヒ―のMサイズをお願いするわ。ガムシロップとミルクはいらないわ」
「かしこまりました。アイスコーヒーのMサイズですね」
今日はアイスコーヒーか。山本先生はコーヒー系のドリンクを注文されることが多い。
「以上でよろしいですか?」
「ええ」
「300円になります」
「RakuPayで払います」
「RakuPayですね。では、コード画面の提示をお願いします」
山本先生はバーコードやQRコードが表示されたスマホの画面を提示する。バーコードリーダーでバーコードを読み取り、支払いが完了した。先生のようにキャッシュレスで支払うお客様は結構いる。
支払いが終わり、俺は山本先生が注文したMサイズのアイスコーヒーを用意する。コーヒーとストローをトレーに乗せ、
「お待たせしました。アイスコーヒーのMサイズになります」
山本先生に手渡した。その際、先生は微笑みながら「ありがとう」と言う。
「疲れはあるそうだけど、笑顔でいい接客ができているわね」
「ありがとうございます。バイトを始めてから1年が経ちましたし。それに、たくさん来てくれる先生が相手ですから」
「嬉しいことを言ってくれるわね」
ふふっ、と山本先生は声に出して笑う。普段、先生はクールな佇まいでいることが多いので、今みたいに声に出して笑う姿がとても可愛く思える。
「この後もバイト頑張りなさい」
「ありがとうございます。先生も本を楽しんでください」
「ええ」
山本先生は俺に小さく手を振って、カウンター席の方へ向かっていった。
カウンター席の空席の中で、一番カウンターに近い席に腰を下ろし、山本先生はさっそく本を読み始める。
本を読み、たまにアイスコーヒーを飲む山本先生はとても綺麗で絵になる。本当に美人な女性だなぁ。俺と同じように思っているのか、男女問わず先生のことを見ているお客様が何人もいる。ただ、当の本人は全く気にしていないようだ。BL小説の世界にさっそく浸っているのかな。
お店の中に親しい人がいるのっていいな。それに、山本先生だから心強くもあって。1年生のときも担任の先生だったから、バイトを始めた俺を気に掛けてくれ、
『このお店でバイトを始めたのね。頑張りなさい』
『ミスは誰にでもあるものよ。白石君は新人だから特にね。ただ、反省をして、なるべく同じミスをしないように心がけていきなさい』
『前よりも良くなっているわ』
などと、接客したときを中心に、俺に対して励ましたり、アドバイスしてくれたりする言葉を掛けてくれた。ミスをしてヘコむときもあったけど、先生の言葉は当時の俺にとって支えの一つになった。家族やお店の関係者以外では一番支えてくれた人だ。
バイトに慣れてきた最近はそういった言葉も掛けられることは少なくなったけど、今日は「笑顔でいい接客をしている」と言ってくれた。それがとても嬉しかった。
洲中に住んでいるのもあり、山本先生とは学校やバイト以外でも、アニメイクなどでも会い、妹の結菜とも面識がある。結菜と一緒に先生のご自宅にお邪魔してアニメを見たり、先生からのお願いで同人誌即売会に参加して同人誌を代理購入したりしたこともある。夜にバイトから帰るとき、呑み会で酔っ払った先生を自宅の玄関まで連れて行ったこともあったか。プライベートな面も知っているのもあり、先生はとても魅力的な人だと思っている。
山本先生のことをたまに見ながら、接客中心に仕事をしていく。
小説が面白いのだろうか。山本先生は微笑みながら読んでいる。その姿もまた美しい。
そして、午後3時半頃。
「やあ、白石君。バイトお疲れ様」
「予定通り来たわよ! バイトお疲れ様!」
「こんにちは。ここまでお疲れ様、白石君」
藤原さん達が来店してきた。藤原さんはフレアスカートに半袖のブラウス、星野さんはロングスカートにシャツの上にカーディガンを羽織り、神崎さんはジーンズパンツに長袖の春ニットを着て袖を肘近くまで捲っている。
「みんなありがとう。今日の服も似合ってるな」
俺がそう言うと、藤原さん達はみんな嬉しそうに「ありがとう」と言った。笑顔なのもあり、今の服装がより似合っている印象に。
「買い物とか楽しめてるか?」
「うん。セントラル洲中に中心に色々なお店に行ってきたよ。服や雑貨を見たり、アニメイクで漫画を買ったりしたよ」
「お昼はパスタを食べたわ。千弦と彩葉と一口交換もして最高だった!」
「ゲームセンターで遊んだり、プリクラを撮ったりしたよね」
と、藤原さん達はみんな楽しそうに話してくれる。この時間まで、3人が楽しく過ごしてきたのだと分かる。
「そっか。楽しんでいるみたいで良かった」
「白石君はどうだい? 今日は午前中からずっとバイトしているって聞いたけど」
「調子いいよ。休日に一日バイトをすることは何度もあるし。それに、1時間以上前に山本先生が来て、今もカウンター席にいるからな」
「それは良かった。あと、飛鳥先生が来ているんだ」
藤原さんがそう言うと、3人はカウンター席の方を向いた。先生は今も本を読み続けている。どうやら、本を読むのに集中していて、俺達の話し声に気付いていないようだ。
「飛鳥先生、本を読んでるね」
「そうだね、千弦ちゃん。いつも綺麗だけど、本を読んでいる姿も綺麗……」
「彩葉の言う通りね。凄く美人だわ」
「絵になるね。そういえば、これまでにも休日にここに来たとき、店内でゆっくりしている飛鳥先生を見かけた気がする」
「ああやって、ドリンクを飲みながら本を読むのが山本先生の休日の過ごし方の一つになっているからな」
「なるほどね。素敵な過ごし方だ」
藤原さんが微笑みながらそう言うと、星野さんと神崎さんは「そうだね」と頷く。俺も今の藤原さんの言葉に首肯した。
「私達もそろそろ注文しようか」
「そうね、千弦。今日はここでタピオカドリンクを飲もうってことになってるの」
「今日は晴れて暖かいからね」
「そっか」
ゾソールではタピオカドリンクも販売している。今日のように暖かい日に飲むのはいいと思う。最近は晴れていると暖かい日が増えてきたから、タピオカドリンクを注文されるお客様が多くなってきた。
その後、藤原さん、神崎さん、星野さんの順番で接客をして、藤原さんはタピオカカフェオレ、神崎さんはタピオカ抹茶ラテ、星野さんはタピオカミルクティーを注文した。
藤原さん達はカウンターに近い4人用のテーブル席に座り、スマホで写真を撮っている。そんな彼女達のことを見ているお客様が男女問わずいて。藤原さんと神崎さんは美人で、星野さんは可愛いからな。
ただ、本人達は周りを気にすることなく、
『いただきまーす』
と言って、購入したタピオカドリンクを飲む。冷たくて美味しいからか、みんないい笑顔になって。可愛いな。
みんな違う味を購入したからか、3人は一口交換していた。その様子も微笑ましい。もしかしたら、一口交換を前提にしてみんな違うドリンクを購入したのかもしれない。
少し談笑したところで、3人はカウンター席で本を読んでいる山本先生のところに行く。頭を下げているし、挨拶をしに行ったのかも。ただ、その直後、山本先生はトレーとバッグを持って、藤原さん達のテーブルに行き、星野さんの隣に座った。
それからは山本先生も一緒に4人で談笑する。山本先生は俺にも見せたBL小説をバッグから出し、藤原さん達もアニメイクの袋から漫画と思われる本を出している。どうやら、漫画やラノベ、アニメのことなどで楽しく話しているようだ。いい光景だ。
しばらくの間は、藤原さん達4人の様子を見て癒やされながらバイトをしていった。
午後5時頃になって、藤原さん達4人と山本先生は席から立ち上がり、
「私達はこれで帰るよ。この後もバイトを頑張ってね、白石君。また明日」
「頑張りなさいね、白石。また明日」
「また明日ね、白石君。残りのバイトも頑張ってね」
「藤原さん達と話せたおかげで、とても楽しい時間になったわ。残りのバイト頑張ってね、白石君」
カウンターに立っている俺に労いの言葉を掛けてくれた。そのことに心が温まる。
「はい。みなさん、ありがとうございます。藤原さんと星野さんと神崎さんはまた明日な」
お礼の言葉を伝えると、藤原さん達4人は笑顔で俺に手を振ってお店を後にした。
藤原さん達4人が来てくれたおかげで、4人がいる間は時間の流れが特に速かったな。4人のおかげで、いつもよりも体に感じる疲れは少ない。それもあり、残り1時間ほどのバイトも難なくこなせた。
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