第11話『白石家』
4月29日、月曜日。
3連休最終日。今日は昭和の日で学校がお休みだ。
今日も朝から晴れている。雲が少し出ているけど、雨が降る心配はないという。今日は藤原さん達が家に遊びに来るから、天気が崩れることがなさそうで良かった。
午後1時45分。
俺は洲中駅南口に到着した。藤原さん達は俺の家に来たことがないため、ここで待ち合わせをして、彼女達を家に連れて行くのだ。ちなみに、藤原さん達とは午後2時に待ち合わせをすることになっている。
土曜日に藤原さんの家へ行くときと同じように早めに来たけど……今日はまだ誰も来ていないか。まだ、待ち合わせの時間まで時間もあるし、気長に待っていよう。
小説投稿サイトでラブコメの小説でも読もうかな。そう思い、スラックスのポケットからスマホを取り出したとき、
「あっ、白石!」
神崎さんの声が聞こえた。声がする方に顔を向けると、駅の改札口の方からこちらに向かってくる神崎さんの姿が。膝丈よりも少し長めのスカートに長袖のVネックシャツという服装だ。俺と目が合うと、神崎さんはニコッと笑って手を振ってきた。そんな神崎さんに俺も小さく手を振った。
「白石と待ち合わせをするのは初めてだから、早めに電車に乗ったんだけど……もういるなんて」
「俺も早めに来たんだ。ついさっきここに着いた。あと、神崎さんって電車通学だったんだな」
「ええ。洲中から上り方面にある
「そうなんだ」
洲中高校はそれなりの偏差値の進学校だし、最寄り駅の洲中駅からは徒歩数分ほど。洲中駅は特急や急行列車も止まる駅。なので、電車通学の生徒も結構いる。吉岡さんも電車通学だ。
「あと、千弦が言っていたけど、白石って金髪で背が高いから見つけやすいわね。改札を出て、南口の方を見たらすぐに見つけられたわ」
「ははっ、そっか。そりゃ良かった。神崎さんも金髪だから見つかりやすそうだよな」
「そうね。遠くから友達に声を掛けられることが多いわ。まあ、今みたいに人の多い場所だと、近くまで行かないと見つけてもらえないこともあるけど。白石みたいに背が高いわけじゃないし。せめて、千弦や早希くらいあれば違うんだろうけどね」
「2人は女性としてはかなり背が高いもんな」
吉岡さんはクラスの女子の中では一番背が高いし、藤原さんも吉岡さんの次くらいに高いと思われる。神崎さんは女性としてはそこそこあるけど、男性もいる場だと姿が隠れてしまうこともありそうだ。
神崎さんと落ち合ったことを、LIMEの4人のグループトークに送る。するとすぐに、藤原さんから、星野さんと一緒に駅に向かっている旨の返信が届いた。
藤原さんと星野さんは駅の北側の住民だ。なので、北口の方を見ながら神崎さんと一昨日や昨日のことについて駄弁る。すると、
「あっ、千弦と彩葉よ!」
神崎さんが指さす方を向くと、北口の方からこちらに向かって歩いている藤原さんと星野さんの姿が。まだまだ遠い場所なのに神崎さんはよく見つけられたな。
おーい、と神崎さんが笑顔で手を振るので、俺も彼女に倣って手を振る。
俺達に気付いたのか、藤原さんと星野さんも笑顔で手を振ってきた。藤原さんはデニムパンツに襟付きブラウス、星野さんはフリルが少しついたワンピースという服装だ。
「白石君、玲央、こんにちは」
「こんにちは、白石君、玲央ちゃん」
「2人ともこんにちは」
「こんにちは、千弦、彩葉。今日も2人の服がよく似合っているわ!」
「似合ってるよな、神崎さん。神崎さんもな」
「ありがと。白石もワイシャツ似合ってるわ」
「ふふっ。ありがとう。2人もよく似合っていて素敵だよ」
「玲央ちゃんは可愛いし、白石君もかっこいいよね」
互いに服を褒め合ったのもあってか、神崎さんの希望で、スマホで何枚か俺達の自撮り写真を撮った。その写真は4人のグループトークに送ってもらった。もしかしたら、昨日も3人で会ったときは、こうして写真を撮ったのかもしれない。
「じゃあ、そろそろ俺の家に行くか。ここからだと歩いて5、6分くらいだ」
そう言い、俺は藤原さん達と一緒に自宅に向かって歩き始める。まさか、藤原さん達と家に向かう日が来るとは。先週末の休みのときには想像もしなかったな。
藤原さん達と一緒に歩いているからだろうか。男性中心にこちらに視線を向けてくる人が多い。藤原さん達と一緒にいる唯一の男として、3人のことを守らないとな。
「あっ、飛鳥先生の家があるマンションだわ」
南口から歩いて1、2分。神崎さんはそう言うと、山本先生の自宅があるマンションを指さす。
「昨日、ゾソールを出た後、飛鳥先生の自宅にお邪魔したんだ。夕方だったから、自宅の中をちょっと見させてもらった形だけど」
「そうだったのか」
それもあって、昨日は4人一緒に店を後にしたんだな。
「とても綺麗な家だったよね」
「そうだったわね。大人の女性の部屋って感じで素敵だったわ」
「私も一人暮らししたらこんな感じなのかなって思ったよ。あと、小説やラノベ、漫画がたくさんある本棚があるから、親しみを湧いたよ」
「そっか。山本先生の家の本棚も色々な本があるもんな」
きっと、本やアニメのことで話が合うんじゃないだろうか。
「その口ぶりだと、白石君も先生の家に行ったことがあるのかい?」
「ああ。1年の頃、妹と一緒に先生の家へ行ったことがあるんだ。妹が先生の家に行ってみたいって言うから。琢磨や吉岡さんとも行ったこともあるよ。用があって俺一人でお邪魔したこともある。あと、妹の誘いで先生がうちに来たこともある」
「なるほどね」
「家に行ったことがあったのね。あと、飛鳥先生は白石と親しそうだったから、先生も白石の家に行きませんかって誘ったけど断られたわ。学生時代の友人と会う約束があるからって」
「そうだったんだ」
というか、山本先生も誘っていたのか。全然知らなかった。ただ、もし先生も来たら、結菜はより喜んだと思う。先生のことを気に入っているから。
それから少し歩くと、閑静な住宅街に入る。個人的には賑やかな駅前から離れ、静かなこのあたりまで来ると家が近いと安心した気持ちになれる。
「南口もこっちの方には来たことがないから新鮮だ」
「私もだよ、千弦ちゃん。南口も少し歩くと静かな住宅街になるんだね」
「あたしも新鮮だわ。洲中駅の南口の方は高校と駅前のお店くらいだから」
「そっか。南口の方も何分か歩けば、こういう住宅街になるんだ。俺の家まではもう少しだよ」
それからも、藤原さん達と一緒に自宅に向かって歩いていく。
みんな、このあたりに来るのは初めてだからか、周りの景色をよく見ている。そんな3人が可愛く思えた。
「ここだよ」
駅を出発するときに言ったように、歩いて5、6分で自宅に到着した。
藤原さん達は「おぉ」と声を漏らしながら、俺の自宅の外観を眺めている。3人はうちを見てどんなことを思うだろうか。
「グレーの外観が素敵だね。うちよりも大きいな」
「あたしの家よりも大きいわ。立派な家だわ」
「私の家はマンションだから、大きさは比べられないな。あと、壁の色がグレーだから落ち着いた雰囲気でいいね」
「ありがとう。じゃあ、家に入ろうか」
藤原さん達と一緒に自宅の敷地に入り、家の玄関を開ける。
「ただいま。藤原さん達を連れてきたよ」
『おじゃまします』
藤原さん達は声を揃えてそう言った。3人とも魅力的な声をしているけど、3人の声が重なると綺麗なユニゾンになって聞き心地がいい。
『おかえり~』
リビングの方から家族全員の声が聞こえてきた。藤原さん達が来るから両親だけじゃなくて、結菜もリビングで待っていたのかな。
「みんなリビングにいるみたいだ。リビングに案内するよ」
俺は藤原さん達にスリッパを用意し、家に上がってもらう。
藤原さん達と一緒にリビングに行くと、俺達を待っていたのか両親と結菜はソファーの側に立っていた。両親は穏やかな笑顔で、結菜はちょっとワクワクとした笑顔だ。
「洋平、おかえり」
「おかえりなさい、洋平」
「おかえり、お兄ちゃん!」
「ただいま。じゃあ、さっそく紹介するよ。こちらの3人が俺の友達でクラスメイトの藤原千弦さん、星野彩葉さん、神崎玲央さんだ。藤原さんは一週間前に俺が駅までナンパから助けた子だ。それで……みんな。俺の家族で父の
「初めまして。藤原千弦です。白石君の言うように、一週間前に駅前でナンパから助けてもらって。それをきっかけに仲良くなりました」
「初めまして、星野彩葉です。千弦ちゃんとは小学生からの親友です」
「神崎玲央です、初めまして。入学直後は同じ掃除当番での繋がりでしたけど、千弦の一件をきっかけに白石君とは仲良くなりました」
藤原さん、星野さん、神崎さんはそれぞれ笑顔で自己紹介をする。こうして見てみると3人とも素敵な笑顔の持ち主だなと思う。
「では、俺達も自己紹介しようか。初めまして、洋平の父の和彦といいます」
「母の由美です。よろしくね」
「妹の結菜です! 中学2年生です! みなさん、よろしくお願いします!」
うちの家族も全員笑顔で藤原さん達に自己紹介をした。あと、結菜は元気良く挨拶して偉いぞ。
「みなさん素敵ですね! 藤原さんと神崎さんは美人で、星野さんはとても可愛くて」
「そうね、結菜。あと、素敵な女子高生を見ていると、お母さんも若返った気分になるわ」
「母さんは昔から変わらず若くて素敵だと思うけどね」
「もうお父さんったら」
うふふっ、と母さんは嬉しそうな様子で父さんの腕を抱きしめる。
「仲のいい御両親だね」
「ああ。昔からずっとこんな感じだよ」
「ラブラブですよ!」
結菜の言葉に俺は首肯する。父さんと母さんは笑顔でいることが多いし。たまに、俺や結菜の前でもキスするときもあるし。喧嘩することは全然ないな。息子から見ても仲のいい夫婦だと思う。
「あの、藤原さん。藤原さんはうちの中学で『洲中高校に通う凄く美人な王子様系女子高生』と言われて有名なんです!」
結菜は目を輝かせてそう言う。藤原さんの卒業した中学じゃないけど、結菜の通っている中学も地元にあるからな。高校に通う姿や駅前のお店にいる姿などを見る中学の生徒は結構いそうだ。きっと、その中にはファンになっている生徒が何人もいるのだろう。
思い返すと、俺が中学時代のとき「駅の北側にある中学の女子に、凄くかっこいい女子がいる」って話を聞いたことがある。その女子はもしかしたら藤原さんのことだったのかもしれない。
「そうなんだね」
「さすがは千弦だわ!」
「ふふっ。結菜ちゃんも素敵な女の子だよ。とっても可愛いね」
「本当に可愛いわよね! 明るい笑顔も、ショートボブの金髪も、くりっととした目つきも可愛いわ!」
神崎さんは興奮した様子で言うと、結菜の頭を撫でる。撫でられたのが嬉しいのか、結菜は「えへへっ」と声に出して笑っていて。そんな結菜の反応を見てか、神崎さんはうっとりとした様子で「あぁっ」と可愛らしい声を漏らす。
「結菜ちゃん可愛いわぁ。天使みたい……」
神崎さんは甘い声で言う。どうやら、結菜のことをかなり気に入ったようだ。あと、結菜が天使のように可愛いのは納得だ。
「凄く可愛いよね。あと、結菜ちゃん、私のことは彩葉って下の名前で呼んでいいんだよ」
「あたしも玲央でいいからね!」
「私も千弦でかまわないよ、結菜ちゃん」
「はいっ! 彩葉さん! 玲央さん! 千弦さん!」
「うんうん、いいわね!」
「名前で呼んでくれて嬉しいよ、結菜ちゃん」
「そうだね、彩葉」
神崎さんだけでなく、藤原さんと星野さんも結菜の頭を撫でる。結菜に下の名前で呼ばれたのが相当嬉しかったようだ。
藤原さんと星野さんにも撫でられたのが嬉しかったようで、結菜はニコニコしている。そのことに藤原さん達は「可愛い」と言って。微笑ましい光景だし、兄としてとても嬉しい光景だ。父さんと母さんも俺と同じ気持ちなのか、嬉しそうな笑顔になっている。
どうやら、結菜と藤原さん達はさっそく仲良くなったようだ。笑顔でいる4人を見てそう思った。
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