第6話 クリスマスデートのお誘い
あれから1ヶ月経った。白鷺にお弁当を作ってもらったり、たまに夕食のおかずをお裾分けしてもらったり、そう言ったことは変わらなかった。
けれど、この1ヶ月で大きく変わったことがある。それは───
「白鷺、朝だよ」
合鍵で家に入り、彼女が寝ている部屋に入ると白鷺はまだ布団の中にいた。
「まだ眠いです」
学校と家とで違いすぎるだろと思わずツッコミたくなる。まぁ、違ってもどちらも可愛いんだけど。
「じゃあ、遅刻コースで」
「それは駄目です!」
起こしたので家に帰ろうとすると白鷺は、俺の手を掴んだ。
「駄目と思うなら起きることだな。じゃ、起こしたから帰る」
そう言うと白鷺は、俺の手を離し、軽く頭を下げた。
「はい。本日もありがとうございます。お弁当ができましたら届けに行きますね」
「うん、ありがと。今日も楽しみにしてる」
彼女とはここで別れ、俺は一度家に帰ることにした。
学校へ登校する時間までまだ1時間あるので、白鷺がお弁当を届けに来るまでは勉強などをしてゆっくりしておこう。
彼女をこうして学校へ登校1時間前に起こしに行く習慣になったのにはわけがある。
ある日からお弁当を作ってもらう代わりに早起きな俺は彼女を起こすことになった。1人でも起きれるらしいが、きちんと決めた時間に起きたいらしい。
「そろそろ、いや、かなり前から気になってたけど、ほんとに隣人とどういう関係なの?」
お昼休み。本日も紬と優太で食べていると2人は俺の食べるお弁当をじっーと見てきた。
「普通だよ。お裾分けでもらってるだけ」
「毎日って、普通じゃないよ。隣人ってどんな人なの?」
紬は、興味があるのか聞いてくるが、俺は正直に答えたくない。周囲の人に隣人が白鷺であることを知られたくないから……。
「俺と同い歳、以上。それ以上のことを聞いてもノーコメントです」
「え~、何でよ。もしかしてその隣人とただならぬ関係なの?」
「いや、ただの隣人だよ」
そう普通……いや、普通なのだろうか。ご飯を作ってもらって、その代わりに俺が彼女を起こしにいく関係は。
「ふ~ん、あっ、クリスマスパーティーなんだけど、昴の家でやってもいいかな?」
「えっ、やだ。何で俺の家なんだよ」
俺と紬、優太の3人でクリスマスパーティーをやることは少し前から決まっていたが、俺の家とは……。
「私と優太の家だと親がいてやりにくいもん。ね、優太」
「うんうん、俺の家だとめんどくさいぞ、うるさいし」
「はぁ……まぁ、わかった。俺の家でやろう。やるのは、クリスマスイブだよな?」
日時をしっかり確認していないとクリスマスパーティーの途中で白鷺がいつものように突然現れたときに困る。
「そだよー、クリスマスイブの午前10時くらいに優太と昴の家に行くね」
「わかった。クリスマスイブの10時だな」
(この時間を放課後になったら白鷺に伝えよう)
あれ、俺、さっきから白鷺が隣人だと知られたくないと思っているが、これじゃあ、俺が白鷺を独占したいみたいじゃないか。
***
「クリスマスパーティー、いいですね。楽しそうです」
放課後、今日は、白鷺が俺の家に来ていた。手作りケーキを持って。
持ってきてくれたケーキを2人で食べ、そこで白鷺にクリスマスパーティーのことを話した。
「クリスマスイブの10時に友達の紬と優太が来る予定なんだ」
「お友達が……あっ、わかりました。その時は、萩原さんに会いにいかないようにしたらいいのですね」
そう言って少ししょんぼりとする白鷺。俺が言いたいことを彼女はすぐに理解してくれた。
「ごめん……」
「? なぜ謝るのですか? クリスマスパーティー楽しんでください。夕食はどうします?」
「夕食にはもう2人は帰ってるだろうし、白鷺の作ってもらったものが食べたい……かな」
さっきまで悲しそうな表情だったが、俺がそう言うと彼女は笑顔になった。
「わかりました、任せてください! クリスマスに合う夕食を作りますね」
「クリスマスに合う? それは楽しみかも」
クリスマスといえばケーキとかチキンとかそういうものを浮かべるが、白鷺の言うクリスマスのための料理はそれとは違う気がした。
「ふふっ、そう言えば萩原さんのクリスマスのご予定はありますか?」
「クリスマス? ううん、25日は何も予定ないよ」
予定がないことを伝えると白鷺は、またパッと顔を輝かせて嬉しそうに笑った。
「本当ですか? では、25日は私とクリスマスデートしませんか?」
「デート?」
「はい、デートです。萩原さんとイルミネーションを見に行きたいと思いまして」
両手を合わせて、ニッコリと微笑む白鷺。クリスマス当日は何もないし、彼女と過ごすのも悪くないと思えた。
「いいよ、俺も久しぶりにイルミネーション見に行ってみたいし」
「ふふっ、ありがとうございます」
ケーキを食べた後は、白鷺とテレビを見てゆっくりと過ごす。この状況から何度、カップルみたいと思ったことか。口にはしないが。
テレビを見ていると彼女は、だんだんと俺の方へ寄ってきて体が傾いていた。
「あっ、ここです、ここにクリスマス……」
「!」
バランスを崩した白鷺は、ポスッと俺の膝に倒れてきた。
「す、すみません……」
「い、いや……」
傾いてるのはわかっていたが、まさかこうなるとは。それにしても白鷺が中々起き上がらない。
こうしているのが気に入ったのかなとおかしなことを思っていると白鷺が、クスッと笑った。
「萩原さん、少し頭を撫でてもらうことは可能ですか?」
「えっ、あっ、いいけど……」
今のこの状況にドキドキしているというのに頭を撫でるとなるとさらにドキドキしてきた。
そっと手を伸ばし、彼女の頭をそっと優しく撫でるとふふっと嬉しそうな声が聞こえてきた。
「いいですね、気持ちよくて寝れそうです」
「寝るなよ?」
「ふふふ、寝ませんよ、じょーだんです。お返しに萩原さんの頭も撫でましょうか? 癒されますよ」
「……お、お願いします」
「わかりました」
ゆっくりと起き上がった彼女は、そう言って頭を優しく撫でてくれた。
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