第5話 私も萩原さんのこと好きですよ

 翌日。今日は、特に予定はなく、テレビを見てダラダラと過ごしていた。


 それにしても昨日食べたチーズケーキは美味しかった。手作りとはこれまた凄い。


 俺は、クッキー以外にそういうお菓子系は、作れないので凄いと思う。


 と、ちょうど白鷺のことを考えているとインターフォンが鳴った。


 出る前にモニターで確認するとそこに映っていたのは白鷺だ。私服姿で何かを持っているように見える。


(白鷺?)

 

 何だろうと思いながら玄関へ向かい扉を開けるとそこには白鷺がいて、ペコリとお辞儀した。


「こんにちは、萩原さん。お昼はもう食べましたか?」


「ううん、まだだよ」


 ダラダラしすぎてお昼前であることも知らないし、どうするかも考えていなかった。


「では好都合ですね。萩原さん、私と一緒にお弁当を食べませんか?」


 そう言って白鷺は、持っていたお弁当らしきものを持ち上げる。


「一緒にって……」


「はい、萩原さんの分も作ってます。今日のお昼は、サンドイッチです」


 そう言って彼女は、お弁当箱を開けた。すると、中にはサンドイッチがぎっしりと詰まっていた。


「お、美味しそう……けど、いいの?」


 お昼は適当にコンビニ弁当でもいいかなと思っていたが、目の前にあるサンドイッチが美味しそうだ。


 俺の分があると言われて、いいよと受け取らないのもあれだよな……。


「もちろんです、一緒に食べましょ」





***





「うまっ……」


 白鷺の家で2人、食べるサンドイッチ。サンドイッチにはいろんなものが入っていて一つ一つ食べる度に中に何が入っているワクワクする。


 夢中になって食べていると前に座る白鷺に見られていることに気付く。


「白鷺、俺に何か付いてる?」


「いえ、萩原さんを観察してました。サンドイッチはどうです?」


 観察……あぁ、サンドイッチが、口に合ったのか気になってたからこちらを見ていたのか。


「美味しいよ。サンドイッチっていったら1番ツナが入ってるのが好き」


「私のことも好きですか?」


「あーうんうん……ん? 何が好きって?」


 サンドイッチの話だったはずが、「私のこと」と彼女は言った気がする。


「ふふっ、私のことです。私も萩原さんのこと好きですよ」


「えっ、あっ、うん、ありがとう」


 「私のこと」発言はどうやら聞き間違いではなかったらしい。けど、まぁ、白鷺のことは嫌いではないので間違った返答はしていない。


(さらっと告白したみたいな感じになってしまったが……)


 サンドイッチを完食し、白鷺が淹れてくれたルイボスティーを飲んでいると彼女が窓から外を見て呟いた。


「……雨降りそうですね」


「ん? あー確かに。今朝の天気予報で言ってたもんな」


 だんだん雲行きが怪しくなり、白鷺は、カーテンをゆっくりと閉めた。


「あの、萩原さん。プリンありますけど、食べますか?」


「ううん、大丈夫。サンドイッチでお腹一杯だから。ほんとありがとな、白鷺。毎日、学校がある日にお弁当作ってもらってるのに休日も作ってもらって」


「いえ、好きで作ってますので。萩原さんが嫌でなければこれからも作っていいですか?」


「えっ、いいのか?」


 彼女にお願いしたら作るのが倍になり負担がかかるのはわかっている。けれど、彼女の作るものは美味しく、いいのかと聞いてしまった。


「えぇ、いいですよ。萩原さん、放って置いたら不健康な食生活を送ってそうですし」

「うっ……」


 そうです、その通りです。白鷺の言うことは間違ってない。


「無茶はしないでほしいがお弁当お願いします」


「はい、任されました。ところで──ひゃっ!」


 何かをいいかけたその時、近くで雷が鳴り、白鷺は、バッと地べたに座りこんだ。


「白鷺、大丈夫か?」


 心配なり、椅子から立ち上がり彼女の側へ行くと、白鷺は俺に抱きついた。


「ご、ごめんなさい……少しの間、近くにいて欲しいです」


 俺の腕を掴んだ白鷺の手が震えていることに気付き、俺はコクりと頷いた。


「うん、いいよ。もしかして、雷、苦手?」


「……は、はい……小さい頃から苦手で。すみません、雷でビックリして子供っぽいですよね」


 うるっとした目で聞いてくる彼女を見て、俺は首を小さく横に振る。そして、彼女の頭を優しく撫でながら口を開いた。


「俺も雷とかでビックリすることはあるよ。大丈夫、鳴り止むまで側にいるから」


「ありがとうございます……萩原さんは、やはり優しい方です」


 少しの落ち着いたのか彼女は、ニコッと柔らかな笑みを浮かべた。


「俺は、白鷺が思うような優しい人間じゃないよ。白鷺の方が優しいと思う」


 そう言って近くにあったブランケットを彼女の肩にかけた。すると、白鷺は、嬉しそうにブランケットが落ちないようにしっかりと手で握る。


「いえ、私はそう見えてるだけで優しくなんてありませんよ。だって───!」


 もう一度大きな雷の音がして、ビックリした白鷺は、俺の腕にぎゅっと抱き付く。


(むっ、むむ、柔らかいものが当たってる……)


 何度もぎゅっ、ぎゅっと抱き付いてくるのでその度に何度も腕に柔らかいものが当たる。


「もう駄目です、動けません……」

「白鷺、窓から少し離れようか」


 この場所は雷の音がよく聞こえるので、ソファへと移動する。


 ソファに横並びに座ると白鷺は、俺の肩にもたれ掛かってきた。


「テレビでもつけたら怖いこと忘れるんじゃない?」

「そうですね、名案です」


 俺の近くにテレビのリモコンらしきものがあったので手に取り、電源をつけた。


 今さらだが、この状況を他人が見たら付き合ってるカップルに見えないだろうか。


 電源がつくと猫特集というものをやっており、好きなのか白鷺は、興味津々に見ていた。そのせいか口が少しだけ開いている。


「白鷺さんや、お口が開いております」


「はっ……! 恥ずかしいです」


 顔を赤らめた彼女は、顔を見られたくないのか手で隠した。


 そんな可愛らしい彼女をじっと見ていると白鷺にペチペチと叩かれた。


「萩原さん? 口開けてバカっぽいと思いましたね?」


「いやいや、思ってないよ」


「むむむ、笑ってますけど」


「気のせい気のせい」


 やり取りが面白くクスッと笑うと、白鷺も釣られて笑った。


(白鷺のこともっと知れたらいいな……)







    

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