第4話 人は触れあうことで幸せを感じる

 学校のない休日。午前中は、カフェのバイトをしていた。バイトが終わると疲れているが、紬と白鷺へのお返しのプレゼントを買うためショッピングモールへ。


 なぜ紬と一緒にかというとアドバイスをもらうためだ。


 2人の関係を知っている人に見られて誤解されないようにするために紬の彼氏である優斗からはちゃんと許可を取っている。


 ショッピングモールから家へ帰ってきた頃にはもう夕方だった。


 紬のおかげで無事、白鷺へのお返しのものは買えたし、今から渡しに行ってみようか。


 突然なので家にいるかどうかわからないが、隣の家のインターフォンを押すとすぐに白鷺は出てきた。


「は、萩原さん? どうかされましたか?」


 いつもは何かを返すために来るが、今日は返すものがない日なはずなのに突然俺が来たので驚いていた。


「急にごめん。白鷺にプレゼントがあって……」


 いざ渡すとなるとドキドキしてきた。それと同時に喜んでくれなかったらどうしようと不安もある。


 紬に女子ならきっと喜んでくれるものだと思うよと言ってもらえているので大丈夫とは思うが。


「プレゼントですか? 私、今日が誕生日ではありませんけど」


「いつもお弁当作ってもらってるからそのお礼。白鷺がこういうの好きかわからないけど」


 後ろに隠していたプレゼントが入っていた紙袋を彼女に手渡す。


 何だろうと思いながらも彼女は、手を伸ばし紙袋を受け取った。

 

 開けてもいいかと聞きたそうにこちらを見たので俺はコクりと頷いた。


 白鷺は、クスッと小さく笑ってから紙袋の中を覗いて入っているものを取り出す。すると、彼女からあまり発せられない声が聞こえてきた。


「わぁ~、これってキャンドルですか?」


 アロマキャンドルを取り出した白鷺はキラキラした目でそれを見ていた。


「うん……白鷺って綺麗なもの好きそうな気がして」


 彼女のことを俺は知らない。だからこそプレゼントは何にしたらいいかとかなり困った。


「綺麗なもの好きですよ。とても嬉しいプレゼントです。ありがとうございます、萩原さん」

 

「っ! よ、喜んでもらえて良かった……」


 天使の笑顔にやられてしまった俺は彼女と目を合わせられず、すっーと目をそらす。


 すると、目をそらしたことに気付いた白鷺は、俺の頬を片手で触ってきた。


 ひんやりとした小さな手が自分の頬に当たり、体が熱くなる。


「あの、白鷺さん? ぷにぷにと同じで触っても何もないよ?」


 そう言うと白鷺は、素早く手を引っ込めた。


「す、すみません……萩原さんに目をそらされたので寂しくなったというかなんというか……ふ、触れたくなりました」


(ふ、ふれ……)


 白鷺、大丈夫かな。触れたくなったとストレートに男に言ったらかなり危ない気がする。相手が友達としてもだ。


 成績優秀でしっかり者だと思っていたが、白鷺は時々危なっかしい発言をする。


「目をそらしたのは別に俺が白鷺と目を合わせたくなくなったわけじゃない。頬はダメだが、手なら……」


 自分でもほんと何を言っているんだと思いつつ、俺は彼女の前に手を差し出した。


 握手するような感じになるだろうと勝手に想像していたが、彼女は、もらったプレゼントをドアノブにかけて嬉しそうな表情で俺の手を両手で包み込むように握ってきた。


「人はこうして触れあうことで幸せを感じることができるらしいです」


 冷たかった手だが、だんだんと温かく感じる。人の温もりを感じることで自然とリラックスすることができる。


「こういうこと誰にでもやったらダメだからな」


「ふふっ、大丈夫です。こういうことをしてあげるのはあなただけですから」


 つまり俺以外にはやらないけど、俺にはやるということ。この告白のような発言に俺は勘違いしそうになる。ほんと危ない発言だらけだ。


「そうだ、キャンドルの他に後1つ入ってるから」


「そうなのですか?」


 彼女は俺から手を離し、気になるのかドアノブにかけていた紙袋の中身をもう一度見た。


 中身を確認した瞬間、テンションがあがった彼女は、俺の両手をぎゅっと握ってきた。


「なっ、これは! 萩原さん、凄いです。あなたは私の心を読める超能力者ですか!?」


「へっ、あっ、どうした、白鷺……」


 急にテンションが上がったのでビックリした俺は一歩下がる。


「このタンブラー、前から欲しいと思っていたんです。凄いです、萩原さん」


 どうやら俺は白鷺の欲しいものを当てたようだ。


 タンブラーは様々な柄があったが、彼女にはこれがいいだろうと俺が選んだ。それがまさか彼女の欲しかったものだったとは。


 良かった。キャンドル、タンブラー、どちらも喜んでくれたみたいで。


「本当にありがとうございます。大切にします」


 紙袋を優しく抱きしめるように持った彼女の表情はとても嬉しそうだった。


「ところで、萩原さん、チーズケーキはお好きですか?」


「チーズケーキ?」


 唐突の質問だったが、チーズケーキは嫌いじゃないのでコクりと頷いた。


「では、今から一緒に食べませんか? チーズケーキを作ってみましたので萩原さんに食べてもらいたいんです」


 食べてもらいたいと言われては断れない。コクりと頷くと彼女は、ドアを開けてどうぞと手でゼスチャーでやる。


「おっ、お邪魔します」


 白鷺の部屋に入ったのは2回目だが、それはキッチンまでだ。彼女にリビングに案内され、ソファに座ってくださいと言われる。


 この前、リビングには案内されなかったので初めて来る場所だ。


 ドキドキしながらソファへゆっくりと腰かけた。あまりジロジロ見るのはあれだが、ゆっくりと部屋を見渡す。


 白鷺らしい家だ。綺麗で何もかも整理整頓されている。


 そわそわしながらも待っていると前にあるセンターテーブルにケーキが乗った皿とカップが置かれた。


「お待たせしました、チーズケーキとはちみつ紅茶です」


「ありがと」


 ティーカップからはとてもいい匂いがする。はちみつ紅茶は飲んだことがないのでどんなものか気になる。


(美味しそ……んん?)


 チーズケーキをよく見てみると形がハートだ。こんな形のチーズケーキは初めて見た。


「ハート好きなのかな……」









 

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