第4話藤岡、壊れる

その日も夜勤だった。オレは前夜、歳上の後輩・川原と、広坂と深夜まで飲んでいた。

昼間の仕事手伝いが、夕方6時までかかった。

夜中の1時の入港船があると言うのに。

やっとの事で、現場から事務所に戻る社用車の中で、オレは苦しみはじめた。

息が出来ないのだ。

呼吸の仕方を忘れてしまったのだ。

オレの異変に気付いた広坂は、事務所ではなく、真っ直ぐ病院へオレを連れて行った。

血液検査の結果、過換気症候群いわゆる過呼吸と、急性アルコール中毒だった。

小林課長は心配して、病院に来てくれた。

診断書を見て、

「過換気症候群と急性アルコール中毒か〜。立派な病気だこと」

と、言ったが、オレは呼吸がやっとの状態なので、黙っていた。


「また、明日の朝に迎えに来る」

と、言って課長は帰って行った。

担当の看護師の針を刺す技術がめちゃくちゃヘタで、オレの左腕には、アザの様な模様が付いた。

点滴が漏れていたのだ。

翌朝、課長が迎えに来てオレは1日の休みだけで仕事に復帰した。


しかし、過呼吸は治らない。ちょっと無理すると、過呼吸を起こすのだ。

オレは自分の身体がどんどん壊れていく感じがした。

課長は流石に1ヶ月は夜勤を休ませてくれた。

先輩の島田がピンチヒッターになったが、書類の不備ばかりで、結局は再び夜勤をする羽目になった。

同期の広坂は、オレの姿を憐れんだ。


名古屋港のクリスマスの名物の花火大会も、貨物船の上から見ていた。

世の中のカップルは、良いクリスマスかもしれないが、オレにとっては自分の置かれた立場に辟易し、鮮やかな色の花火を憎んだ。

その頃から、オレはおかしくなってきた。

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月を数えて 羽弦トリス @September-0919

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