9 ボス戦決着

 順調に、クルガさんの放つ弾が当たり続け、私も半分運で避け続けられている。

 ていうか、魔法銃って結構反動強いらしいのによくこんなに当てられるよね、クルガさん。

 ここまでいけば順調だろうって思ってたんだよ。


 私がストーンゴーレムのこぶしをよけ、ちょうど私の陰に隠れていたクルガさんが、攻撃後にできたストーンゴーレムの隙をついてクルガさんの銃がまたヒットする。

 パンッと小気味いい音を立てて、コアが割れる。

かけた核がチン、と小さな音を立てて床に落ちたとたんにそれは起こった。


 ひどく緩慢な動作で自身のコアだったものを見つめたストーンゴーレムは、その空洞の目に怒りの光をともらせる。

 それこそ文字通り灯った青い光に私は驚愕した。

「はぁ!? 覚醒!? なんでこんな初期階層で発生するの? 確率めっちゃ低いはずなのに!」

 知識はあるだけ無駄じゃないと思っているけど、この時ばかりは全記憶をどこかにすっとばしたかった。

 知識があるせいで、モンスターの覚醒がどれだけ面倒くさいかよくわかってしまい、嫌な妄想が止まらない。……怖いよぉ。

「イリシャ、落ち着け。とりあえず俺にその覚醒というものの説明をお願いしてもい大丈夫か?」

「モンスターがめちゃくちゃ強くなって、今までしてこなかった攻撃をしてくる。

まぁ、見ればわかりますよ」

 そう話している間にも、私が安全を考慮して前線からどいたから防御態勢に移ったストーンゴーレムが明らかに怪しい動きをしてる。

 上半身を下半身にくっつけ核を完全に隠しやがったストーンゴーレムがなんだか小刻みに震える。

 ……そのまま崩壊してくれないかなぁ。


 モンスターが覚醒するよりもさらに低い確率で、覚醒時に失敗することがある。

 ようは、自爆。

 だがしかし、起こることなんてほとんどない。

 数百年に一回観測されてるぐらい。

 もし起こったら狂ったマッドな研究者サイエンティストが狂喜乱舞して調べることだろう。まぁこの迷宮で起きたとして、外部の人が入ってこれるのか知らないけど。

 そもそもこの迷宮ってどこにある迷宮なんだろう?

 なんて、考えても仕方ないか。わかったところで出られるわけじゃないし。


 そのまましばらくストーンゴーレムの様子を見ていた私は、ストーンゴーレムの色が変わったのを見て口を開いた。

 ストーンゴーレムが動かないんだから攻撃すればいいだろうって思うけれど、最大の弱点を防御されちゃってるんだからもうどうしようもない。

「クルガさん、いい知らせがひとつと、悪い知らせがひとつ、どちらから聞きたいです?」

「では、悪いほうからで頼む」

 うーん、悪いほうからでいくかぁ。

「ご覧の通りモンスター大量発生します」

 水色と紫のグラデーションみたいな色に変わったゴーレムの異変を指さす。

 周りに謎の召喚陣もどきが表れていて、そこから水色系統のモンスターがごろごろ落ちてきてる。

 ……あああ、まずいまずいスライムくっつき始めてる。

「えー、クルガさんのって炎でしたっけ?」

 その銃、その銃って指さしながら聞く。

 行動とかが軽いってよく言われる。でもなんかこう……緊張した場っておちゃらけたくなるじゃん。


 ちなみに出てきたスライムは、恐らくアイスライムかミズライムかな?

 水系統であることは間違いないと思うんだけど……。

 問題があるとすればスライムって属性なしの状態で水色なんだよね。

 見分け方は、ミズライムは中にあぶくができてることが多い。

 動くことで中の液体? が泡立つらしい。よくわかんないけど。

 あと、なんかときどき魚が入ってることがある。食べたのかな?

 食べたにしてもなんで溶けないで残っているのだろうという謎はいまだに解決されていない。

 海辺に出現するスライムはたまにシャレにならないような毒持ちの魚入っててミズポイズンライムとかになってたりするんだけど。


「炎で間違いないと思うぞ」

 大体言いたいことを察したのか、既にクルガさんは銃を構えてくれてる。

「有効攻撃が斬るだろうが、突くだろうが、叩くだろうが魔法属性が逆だったら効くんで、その銃でだいたい全部やれると思います。

んで、いい知らせはそれですね。ストーンゴーレムは覚醒で水系統のストーンゴーレムに進化したっぽいです。ちなみにボスレベルが覚醒すると下位のモンスターを従えるようになりますってことが、目の前の現象でおわかりになるかと」

 ストーンゴーレムの腕の振りに合わせて、スライムやグール、スケルトンらが一斉に襲い掛かってくる。

 救いがあるとすれば、この階層より明らかに強いモンスターは出ないことかな。

 多分だけど、この階層はスライム、グール、スケルトン以外は出ないんだろう……あ、ミミックとかの扱いはどうなるんだろうな。ミミックは特別枠かな。アイズ同様。


 で、ところで私もなにかしなければならないのだが、接近戦闘は強くないから、さてどうするか。

 先ほど手に入れた、メイノ実とやらが気になっているのでちょっと調べてみよう。

 --装備スロット!


『武器:分類飛ビ道具・革製スリングショット(付与効果無シ)

弾:ラカノ実(対魔物ニシビレ効果アリ、体ノ小サイモノホド効キ目ガ強イ)

弾:メイノ実(属性炎、当タルト小サナ爆発ヲ起コス)』


 いよっしゃあ!

 やばいなぁ、この迷宮ちょっと楽しいかも。

 これ全部誰かに仕組まれてるんだ。どれか一つ欠けるとすっごく難易度が跳ね上がるようになってる。

 これが偶然じゃないことを祈るよ、全部手探りでやっていくより、正解があるほうがやりやすい。

 さて私も攻撃を仕掛けていきますか。

 ラカノ実のほうが黄色で、メイノ実は赤ね。やりやすいな。

 とりあえず私はスライムを狙ってみるかな……。ちゃんと全匹核はあるし。

 ぎゅっと引いて……撃つ! いっけぇ!

 飛んで行った弾はパパンと軽快な音を立てて赤い火花を散らす。

 それをもろに受けたスライムは……溶けて消滅。えぇ……つよ……。

(あははっ、負けちゃったぁ、オネーチャンこの先も頑張ってね!)


 ……この先もってどういうことだろう。

 やっぱりすぐには出られないのかな。

 とりあえず他のも倒さなきゃ。




「クルガさん! あとちょっとだと思います!」

 スリングショットで敵を打ち続けてはや数匹。

 その間にもクルガさんは器用にゴーレムも攻撃してくれてるおかげで、結構核にはひびが広がっている。さっすがクルガさん。

「って、うわっ」

 まだ、なんか新しい攻撃がくるの?

 ストーンゴーレムの肩付近から射出された、いくつもの氷の矢に回避行動が間に合わない。

「イリシャ、すまない!」

「ぅわ!?」

 どっ、と半身に衝撃を受けて吹っ飛ぶ。ああ、でもさすがクルガさん。

 事前に言ってくれたおかげで、ちゃんと受け身がとれた。しかもぎりぎり吹っ飛ぶくらいの強さに加減してくれたし。うますぎやしないか?

「クルガさん、ありがとうございます!」

 魔法銃を振り回して、1撃目、2撃目を砕き散らしているクルガさん。

 ……魔法銃って近接武器だったっけ?

 まぁ! 私もかばわれてるままじゃダメだよね!

 狙いをつけて……、今だねっ。肩付近に出現した氷の矢をスリングショットで弾く。

 まぁ、スリングショットだから弾けるほどの威力はないんだけど、使ってる弾がメイノ実だしね。氷の矢と当たって小さな爆発を起こす。

 見事、2撃ともあたってストーンゴーレムの肩に少量の雨を降らす。

 ふふ、結構スリングショットの腕前いいんじゃない?

「くくっ、さすがだな、イリシャ」

 先ほどまで私が立っていた方を見ると、クルガさんが笑ってた。

 壮絶な顔でストーンゴーレムを睨みながら。

 その顔にぞくぞくしたものが背筋を走るのを知りながら、私もにんまりと笑みが浮かぶ。

 こんな時なのに、すっごく楽しい。


 高らかな破裂音と共にゴーレムが崩壊する。

(ふん……随分と美しい信頼関係だ……)

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