7 ミミック/グール参戦

『罠モンスター:アイズ撃破ヲ確認シマシタ。隠シ部屋ヲ開放シマス』


 え? お、まじか。ラッキーだな。


 後ろの方でガコンガコンという音が聞こえたので、ちょっくら行ってくるとしますか。

「クルガさん、ちょっくら隠し部屋に行ってきますね〜」

「……無茶するなよ。あとさっきのは見事だった」

 おや、見られていましたか。いやお恥ずかしい。

 すたこらさっさと退散し、一番初めの部屋に行くと……うわマジ?

 なんと階段が出来ていました。

 まじか。階層移動するのか。隠し部屋で。いや、中二階的な存在なのかな?

 まあいいや、ぱっと見罠もなさそうなので進んじゃお〜っと。

 とんとんとん……っと。

 階段を登りきった先には宝箱が三つあった。

 お〜、ベタな展開ですな。

 じりじりと三つに近寄っていく。

 ……いた。擬態、見破ったり!


 というわけでミミックと呼ばれる、主に宝箱などに擬態している怪物に一気に近づき、喰おうとしてがっと開いた口の中に短剣を突っ込む。

 うおわ、危な。一歩遅れていたら腕喰われてたよ。

(チッ、惜しかったなァ……)

 いえ本当にそのとおりでございやす。冷や冷やしたわ。

 恐らく一体だけだと思う。

 ミミックはやはり動いてしまうのだ。呼吸をしているらしいから。

 しばらく見つめていればだいたい気づける。

 わー、宝箱だー。と思って突っ込むとどうなるかはまあご想像の通り。

 がぶり、といかれるわけですね。

 さてさて、それではいざ、宝箱開封の儀。

 まず一個目。

 ぎい〜、と。

 はい。中に入っていたのは……なんとライフルっぽい銃だ!

 よっしゃ来た! これは来た!

 形状的に絶対に魔法銃だ。

 気付けなかったらやばかった。

 よっしゃやりましたぜクルガさん。恐らくクルガさんのボーナス関連ですよ。両方クリアしないと使えなかった代物ですよ。

 さて確認のためにもう一個の方を、ぎい〜、と。

 お、スリングショット。と、弾かこれ?

 ポーチのようなものが入っていたので開けて確認。

 なんじゃこりゃ。……弾……だな? 弾……なんだよな? 木の実っぽいが弾だと思う。このセットは。

 ま、いいや。取り敢えず報酬はこれだけっぽいから回収して……っておいちょっと待て。

 ミミック発見!

 短剣を取り出しずだっとやると、小さな小箱のようなミミックは消えずに残った。

(ぁあ〜、バレちゃった〜)

 おう、途中までは気付かなかったぞ。

 ミミック憑依バージョンか。擬態と違って、本来は宝箱であるから、ハンマーで倒すと中身まで砕け散ることになる。

 剣とかその他であれば、基本モンスターの耐久値より箱の耐久値が上回るから問題はない。

 それ以外はあまり注意することのない、まあ、ちょっと厄介、そんなミミックを地で行く奴らなのである。

 さて、部屋の隅にさり気なくあった小箱。

 開けてみると……、宝石。

 うん、紛れもない宝石。赤いやつ。あと超小粒。

 小粒だけどルビー? 魔石とかルーンとかじゃなさそうだな?

 あれでも、ルビーにしては軽い? 小粒だからわからんな。


 本当にこれだけか。大丈夫だな? まぁ大丈夫。ぱっと見トラップは他に見られない。よし帰ろう。

 とんとんとん……って!

 あの、グールとか待ち構えてなくていいんですけど。

 っていうか君どっから湧いた?

 奥の部屋からやってきているんだとしたら途中でクルガさんと遭遇しているはずだからおかしい。

 取り敢えず今は詳しいことを考えている暇じゃないんだよ。

 繰り返し言う! あたしは戦闘職じゃない!

 とか言える状況ではなく。

「ガギャアギャア×△※……!」

 ひえええええ。

 手元にある武器はライフルとスリングショット。

 威力はライフル。使用経験はスリングショット。

 こんな二択迷う余地もねぇ! スリングショットだ!


 ライフルを背中に背負い、スリングショットを左腕にはめ、留め金をしっかりととめる。

 あ、あれなんだったんだろ。

「装備スロット!」


『武器:分類飛ビ道具・革製スリングショット(付与効果無シ)

弾:ラカノ実(対魔物ニシビレ効果アリ、体ノ小サイモノホド効キ目ガ強イ)』


 まあまあまあ。なるほど役に立ちました。

 これなら武器、装備類は鑑定をしなくてもいいっぽいな。

 便利な機能。で、便利な機能が迷宮にあると……嫌な予感がすんだよなぁ。

 それがないと攻略しにくいってことだからね?

 取り敢えずグールは動きが遅いため、べちこんとまずは一発。

 開いている口を狙っては見ましたが、左右にゆらゆらしているため少々ずれました。

 それでも当たりは当たり。

 グールが目に見えて痺れてる。おお、強い。

 その間に両手で短剣を握ってザシュザシュザシュと。

 なんだろう。この私がどれほど戦闘に向いていないかがよく分かる。

 さてここで一つ補足。グールには核がありませーん。ありませんったらありません。

 なぜか。


 そもそもグールとは生を渇望する亡者である。

 生きることを極限まで求め、体が腐ってもなお、生きようとしたモンスター。

 そこまでの執念はいっそ、尊敬に値するほど。

 まぁ、一般の人は気持ち悪いで終わらせがちなモンスターだけど。

 と、いうわけで、このグールという生に固執したモンスターは自身の弱点をなんとかしてとっぱらっちゃったわけでですね。


 なんだよ、なんとかしてって! そこもう少し詳しく教えろよ!

 と、師匠に嚙みついたことはよく覚えている。

 師匠に噛みついたところで、まったく、これっぽっちも、その原理がわかったわけではないのがポイント。

 そんなこんなでグールの総評価。

 見た目がキツ目で戦闘レベルもキツ目で、救いがあるとすれば、基礎体力は少ないことだろうか。あと動きが遅い。


 ザシュ、と何回目かに突き立てた短剣が空を切った。

 グールの体が崩れ始めていたので倒しきれたのだと知る。

 結構安堵して、ため息をつく。

(いっそ一息にやってくれよ……)

 そんな呆れたようなくぐもった幻聴が聞こえた後、グールが消え失せた。

「本当にそこは申し訳ない……」

 悲しい独り言を返し、自らの冒険者としてはかなり情けない二の腕を見つめる。

 どれほど頑張ろうと筋肉なんていう、うらやましいものはつかなかったし、武器を持つ練習も当然しようとしたんだよ。

 悲しいことに短剣以外は超常現象か何かに呪われているんじゃないかってほど、できなかった。


『タスク完了:グール撃破×5

ボーナス:メイノ実』


 よっし、なんかどうみても私の武器用のボーナスゲットしたー。

 そしてボーナスがもらえたってことは、私がなんとか倒したグールはたぶん、この隠し部屋でなにかしらのアクションをすることで出現したモンスターなんだろう。

 まぁ恐らくだけど、隠し部屋にある宝箱を“全て”開けるとか。

 そんなところじゃないかな。


 よしじゃあ帰ろう!

 来た時と同様、とんとんとんと階段を下りて、あの一番最初の石の間Iに戻ると、どうやら戦っているらしい戦闘音が聞こえてきた。

 え? 何事? 戦闘音なんだけど、その……音が重い。

 石が砕けてそうな音がしてる。


『警告! 時間経過ニヨリ封印ノ間Iカラボスガ移動シマシタ。

クルガ・オルデンガボスニ接触! 直チニ支援ニ向カッテ下サイ!』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る