4 スライム参戦

「ところでだが……、扉、溶かされているよな?」

「えっ?」

 なんだそれ、知らないよ……? よぉおおおっ!?

 ……溶けてる。

 お見事としか言いようがないぐらいに、いつの間にか溶かされてるっ。

 スライムくんですねッ!? しかもなんかでかいし!

 これはあれですね。さてはくっついちゃいましたね?!

 勘弁してくれ、スライムく〜ん。

「ええええええ……。扉閉めたの失敗?

これはスライムくんくっついちゃって……るね。

はい。見間違いではありませんでした。いや〜あ、夢なら醒めてくれないかなぁ」

「……醒ましてやろうか」

「ちょっと方法を聞きたいような聞きたくないような、複雑な心境ですがご遠慮しておきます。ふざけるのはやめるにしても……。

朗報です、クルガさん。あたしたちの持っている武器はスライムには向きません」


 スライム討伐の基本は長剣でぶった切ることだ。

 下手に切ると分裂するけど、素早く切ればこう……ドロっとというかドパッとですね? 言わなくても想像できますね?

 これがやり方の1つ。他にはスライムの核をブッツブセ☆

 という方法があるが、それに向いているのはハンマーだ。しかも飛び散る。何がとは言わないが飛び散る。

 間違っても短剣でスライムに立ち向かおうなどと思ってはいけない。

 腕が埋まって溶ける。

 ちなみに銃は弾かれるのだよ。ぷるんぷるんスライムくんに。

 あの弾力は素晴らしいとしか言いようがない。

 スライムくんはだね。ちょっと触れるぶんにはぷるっぷるで心地が良いんだがね。

 長ぁく触ったり体液に触れたりするとだね。じゅわっと溶かされるんだよね。


「おい、言葉の使い方が間違っているぞ。それは朗報ではなく、悲報か凶報というんだ」

「いいんですよ〜朗報で。朗報なんです。誰がなんと言おうと、例え間違っていようと朗報なんです。わかりましたか」

「……怖いのか」

 その言葉に、ヴァッとクルガさんの方を見る。よくぞ聞いてくれました!

「怖いですよ! いやですね、あたしは密偵であって戦闘職ではないんです!

自他共に認める迷宮マイスターではありますけれどね!? 雑魚モンスタースライムにビビるぐらい戦闘慣れしてないんですよう!!」

「大丈夫だ。俺は戦闘のプロの軍人だから」

「その自信どこからくるんだ」

「取り敢えず……くるぞ!」

 にょるりんでれーん。

「きゅっむ〜〜ん!!」

 やってきました! スライム選手!

 身長2mを超える巨体で他の選手を圧倒するぅぅぅーーー!

 じゃねぇよ。いやでかいわ。何体くっついてんだこれ。

 申し訳程度にくっついてたはずの縦棒の目が、すっごく長いんですけど?

 ……てゆうか、あれ見えてんのかな?

 目に光がないしそもそも棒だし。いや、あれ目じゃなかったのかな。

 って、おおおおおおいい!? クルガさん!?

「ちょ、何突っ込もうとしてるんですか。

あのですね、スライムはですね、最弱モンスターと言われるくせに条件が揃わないとめっちゃめんどくさいモンスターなんですよ、知ってますか?

単身で短剣で突っ込んでったら溶かされてハイ終わり☆ ですからね!?」


 あまりのでかさに、現実逃避していたら、短剣片手に突っ込もうとしているどこかの誰かさんがいらっしゃいましたよ。

「そうなのか?」

 あたしに襟首を掴まれながら、何か問題が? みたいな顔で聞いてきたクルガさん。

 あ、なんか唐突にすっごい頭痛がする。

「そうなんです」

「やってみなければわからない」

 いや、ちょ、おーい?

 あたしの警告聞いてました? 溶かされてハイ終わり☆ とか嫌ですからね?

 まあでも……唯一の救いは核があることか。分裂体だとだと核は本体にしかないから弱点がないことになる。

 まっ、核までどんだけあんだって話なんだけどねっ。核をあたしたちの武器でやろうとしたらじゅわっとされてお終いやねん。

 スパン! スパン! スッパーン!

三連斬り! ですねクルガさんさすがです。

 スライムくんが例え数が増えただけだったとしても、おかしいなと言わんばかりに首をかしげていても、クルガさんさすがです。

「……言ったでしょ?」

「……おかしいな」

 いや、あたしが心の中で思ったこととシンクロしないでください。

 スパン! スパン! スパン! スパン! スパパパパパパ!


 わー、十連斬り! すっごーい、すごいすごい!

 注。棒読みです。

 忠告。只今のスライムの数は、14体です。2m超えではなくなったけれども。約1mぐらいにはなったけれども。

「きゅむー。きゅむー。きゅむー。きゅむー」

 なんともかわいらし……げふんごふん、憎らしい鳴き声を上げながら迫ってくる。

 あー。小さくなるとかわええなぁ。いや、別にかわいいわけじゃない、わけじゃない、わけじゃない、わけじゃないけど。

 あれ? 小さく……?

「クルガさん! 赤い石埋め込まれてるやつだけ狙ってください!」

 あたしの方に向かってきながらなんだかあくどい顔を浮かべるスライムくん(個人の感想です)を横目に見ながら、部屋を大きく周り込んで扉の方へ駆けながら叫ぶ。

 怪訝そうな顔を浮かべていたクルガさんだったが、

「イエス・サー!」

「あたしはサーではないです!」

 軍人の癖なのだろう。そう返してきたが、訂正しておいた。

「はっ!」

 スパパパパパ!


 よく短剣をそんなに早く振れますね。あたしにゃ、無理です。

 スライムくんの後ろに周り込んだ! この大きさなら、素手で突っ込んでも、被害は少ないはず……!

 ごめんね、かわいいスライムくん!

「いっけぇ!」

 急ブレーキ。からの直角に方向転換。からの伸ばした手で、スライムの体を貫いて核を奪い取る。


『タスク完了:スライム(無)撃破×5

ボーナス:ルーン(――の欠片)』


じゅあっ、と音がして左手に鋭い痛みが走る。

「きゅ……む……?」

 え……? みたいな顔をして(個人の感想)消え去ってく自分の体を、縦棒の目を体? の下側におろしてきながら見つめるスライムくん。

(ごめんね、溶かして。ごめんね、襲って)

 幻聴だ。いつもの、幻聴だ。だけど、いつもどおり、悲しくなる。

 コロン。

 核を取り落とし、ただれて痛む手を無理やりあげながら、顔の前で手を合わせる。

 こちらこそ、ごめんなさい。どうか、安らかにお眠りください。


 偽善でしかない。前に組んでいた仲間にも言われた。

 だけれど、命なのだ。尊ばれるべき、命なのだ。例え敵であれど。例え敵としてしか接することができなくとも。

 消えてしまう、命だから。

 それは悲しまれるべき死であるのだ。

 自論。偽善。そうやってポイント稼ごうとしてるんでしょう。無駄だよ。敵でしかないだろ。

 なんとでも言え。あたしのすることは、無駄ではない。死んだときに誰にも悲しまれないことこそが、悲しいことだから。

 私がそう信じる限り、私はそう動かなければ筋が通らないだろう。

 敵であれど、その戦いぶりに、精一杯生きたことに。

 あたしが送るものではありますが、せめてもの称賛と、祈りを。

 お見事でした。


 ―――その生き様にせめてもの称賛と、祈りを。

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