家庭環境 5

 車が速度を落としたので、彼女の家に到着したようだというのが分かった。けれどフロントガラスを見ると、遠隔でガレージの扉が上がっていて、私はとても驚いていた。

自動で扉を上げるガレージがいくらするかなんて知りもしないが、今までそれが家にある人に出会ったことがなかったので、物凄いお金持ちに違いないと恐縮した。

 ガレージの扉が閉まると結愛の母親が「はい、降りてー」と言いながら車の外に出る。それに倣って私も結愛も車を出ると、既に彼女の母親がトランクから鞄を取ってくれている所だった。

「あ、すみません。ありがとうございます」

「入口あっちだから」と結愛の母親は車の頭の方を指さす。

そこには家の中に続いているらしい扉があった。荷物を持って結愛と一緒に扉まで移動すると、結愛のお母さんが扉の鍵を開ける。

 扉の向こう側を見て驚いた。

一階のスペースが丸ごと玄関ホールとして使われているようだ。

床は綺麗に木目のフローリングが敷かれていて、家具も何も置かれていない。

ガレージと繋がっている扉とは別に、右側に二枚の大きな扉で出来た玄関が見えた。左側には二階へと続く階段と洗面器が見える。どうやらここにお風呂場があるらしい。

「お邪魔します」と言いながら、私は靴を脱いで上がった。

脱いだ靴を玄関に置き直してから、二階に上っていく結愛の後ろを着いていく。

二階は廊下に繋がっていた。目の前に障子が並んでいて、右を見ると奥に扉が見える。左を見ると暖簾がかかった出入口がある。

階段は三階へと続いていて、家の大きさになお恐縮していた。まるでモデルハウスみたいだ。

 結愛は「こっちだよ」と言いながら左の暖簾をくぐっていった。

彼女の後を着いていくと、目の前にキッチンがあり、右に大きなリビングの空間があった。大きなソファーが置かれていて、低いテーブルをはさんで向かいに大きな壁掛けのテレビスクリーンがある。

 ソファーに結愛が座ったので、私はおずおずとソファーの上にリュックを置いた。

その後どうしたらいいのか分からず立ち止まっていると「後で毛布持ってくるから。そこのソファーで寝るの多分気持ちいいと思うよ。何か食べるものいる?」と声をかけれた。

結愛はカバンから教科書を取り出して、それをコーヒーテーブルの上に広げ始める。

「わかりました。ごはん、食べてきたので大丈夫です」

「そう? 分かった」

 そう言って、結愛の母親は部屋を出て行ってしまった。

コーヒーテーブルが低すぎて、ソファーに座ったままでは前かがみの状態になってしまうので、私は結愛と同じように床に座る。コーヒーテーブルとソファーの隙間に入り込むようにして、床に敷かれたふかふかのラグに尻を落ち着けた。

 すると、毛布を両手で抱えた結愛の母親が部屋に入ってきて、私は急いで立ち上がり、毛布を受け取りながらお礼を言った。

毛布をソファーの上に置くと「ちょっと来て」とキッチンへ手招かれたので傍に行く。彼女の手元にはキムチ鍋の元のパッケージがあった。

「明日の朝ご飯キムチ雑炊にしようかと思うんだけど、辛いの平気?」

「はい。全然大丈夫です!」

「ん、わかった。ごめんね邪魔しちゃって。どうぞどうぞ課題やって」

そう溌溂と返答され、私は頭を下げてまたコーヒーテーブルとソファーの間に戻る。

「もう寝るから。お二人さん徹夜頑張って」

結愛の母親はそう言いながら暖簾をくぐっていった。

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