家庭環境 4
そのまま自己紹介をするつもりだったが「あぁ、結愛のお友達でしょ。何かほしいものある?」と当然のように言われ私は「いえ、ないです」と即答する。「本当に? そう」と言った後すぐ、また結愛に「まだなの? 早くしてよ」と言いつける。
私は世間話を促されたり、何か質問されるだろうと思っていたので、それだけ? と内心呆気にとられていた。
結愛がペットボトルに入れられたスムージーをレジに置くまで、私はただ彼女の母親の隣に黙って立っていた。
結愛の母親が会計を済ませるのを見守っていると「リュック重いでしょ。車に入れちゃいな」と私に言ってから結愛の方を見る。
「分かりました。ありがとうございます」と言って、コンビニを出ていく結愛についていくと、結愛が高そうな黒い四人乗りの車のトランクを開けようとした。「鍵かかってる」と結愛が言いながらまたコンビニの中に戻っていく。
鍵を持って帰ってきた結愛は遠隔で開錠し、私のリュックをトランクに入れてくれた。
二人で後部座席に座って待っていると、結愛の母親が運転席に乗り込んで、買ったものが入っているコンビニのビニール袋を結愛に渡した。
「深夜にすみません。お邪魔します」
「あぁいいのよ。気にしないで。結愛、自分のもの取った?」
「取ってないよ。何も言ってないじゃん」
「早く取ってよ」
自分の母親とは違って、語調が強いしゃべり方に私は驚き、どう振舞ったらいいのか分からなかったので、ただ大人しく座っていた。
車は発進すると、真っ暗で細い道路を通っていった。運転している最中に結愛が「はい」とスムージーを手に取ってからビニール袋を渡したので「何でよ。今渡さないで」と言いながら結愛の母親はビニール袋を後ろ手で受け取っていた。
辺りが真っ暗で、どこの道を走っているのかは全く分からなかったが、対向車が放つヘッドライトと、前に並んでいる車のバックライトだけは見えた。
結愛が駅から歩いて帰宅すると言っていたので、車ですぐに着くかと思ったけど、想像以上に時間がかかった。「歩く距離結構長いね」と結愛に話すと彼女は「でしょ」と同意されて嬉しいといった風に微笑んだ。
すると結愛の母親が「こんな時間までいつも勉強してるの?」と結愛に聞き、彼女が「だからいつも大変だって言ってるでしょ?」と反論した。
「二階にソファーがあるから、そこで寝てもらうから。朝ご飯なにがいい? キムチ雑炊でいい?」
てっきり学校での出来事のことを聞かれるのかと思っていたので、少し拍子抜けした。間髪入れずにまくしたてるように話すところは少しピリピリしているように感じられたけれど結愛の母親を怖く思うことはなかった。
「はい、大丈夫です。遅い時間に突然お邪魔してすみません」
「いいのよ」
結愛の母親のきびきびした様子から、マナーにも厳しい人なのではないかと思っていたけれど、そう即答されて、本当に気にしていないようだと分かって少し安心した。
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