家庭環境 1

 私も結愛も、大量の宿題と課題を裁ききることができず、授業後は学校でそれらに取り組んでいた。

 私たちの健気な努力にも関わらず、宿題を終わらせる前に閉館時間が来てしまったので、荷物を持って外に出る。

 結愛を駅まで送るために、いつものように二人で彼女の駅に向って歩いていた。

「宿題終わった?」

「まだ」

「私も。私これからマクドでも行って徹夜して終わらせようかな。家帰るのも面倒だし」

「じゃあ家に来なよ」

「え、突然過ぎない? いいの?」

「大丈夫だよ。来る?」

「え、行きたい。あー、でもな、やっぱいいや。こんな深夜にさすがにお邪魔できないよ。それに通勤時間同じなら家に帰った方がいいし」

「全然大丈夫だよ。私のお母さん気にしないと思う」

「いや、でも」

 遠慮していると結愛は「ちょっと待って」と突然、私に有無を言わせる隙もみせずに、素早くスマホを耳にあてた。

 電話のコール音がした数秒後に、女性の声が小さく聞こえる。

 結愛が「友達がこれから泊まりに来るからよろしく」と開口一番そう断言するので、私は焦って両手をひらひらと彼女に向って振ったが、彼女はそれを無視しようと私から顔を背けながら歩いていく。

 こうなっては仕方がないと私も観念し、結愛の家にお邪魔する覚悟を決めた。

 駅に向って歩いている途中、結愛の家がどこにあるのか聞いたけれど、結愛は「良いから」とはぐらかすばかりで、教えてくれなさそうなので諦めた。

 改札を通った後はただ大人しく彼女の後ろをついていく。

 電車の中でおばあちゃんに「連絡遅くなっちゃってごめんね! 今日は友達の家に泊まります!」とメッセージを送る。

 これから結愛の親に会うのだと思うと緊張して、頭の中で何度も、会ったときに何と言おうかと考えていた。

「どうしよう。こんな深夜に突然お邪魔して、絶対失礼な人だと思われるよ」

「えー、いいんだよ。私が連れてきたんだから。それに、深夜に燈佳がいれば駅から家まで車に乗せてもらえるから助かる。燈佳が居てくれてよかった」

 暫く電車に揺られていたが結愛に「次終点だから降りるよ」と言われるまま電車を降りた。

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