お泊り 1
金曜日の帰り道、いつものように私が結愛を駅まで送っていると、結愛は家に帰りたくないと言いながら、ぐずるように歩きだした。
最寄り駅までの時間を引き延ばそうとするかのように、私より小さな歩幅を更に小さくして歩いている。
改札まで来たところで、結愛はそこに暫く立ち止まって、「帰りたくないなぁ」と呟いた。
「なら、家に来る? 四十分くらいかかると思うけど」
「うん。行く」
私から提案したことだったけれど、行くと返信されるとは思わなかったので内心驚いた。
家で何かあったのだろうかと心配になったけれど、質問するにはプライベートすぎる内容だと思ったので言わないことにした。
二人で西武新宿まで歩いて、電車に乗る。席に座ることが出来て、彼女の華奢な肩が電車で揺られて当たる度にドキドキしたけれど、それが私だけなのは分かっていた。
会話をするときは大抵課題のことだったけれど、結愛が「家に誰がいるの?」と私に聞いてきた。
「おばあちゃんの家に住まわせてもらってるんだ。だから、おばあちゃんと私だけ」
「へぇ、いいね。楽しそうで呑気な感じする」
「うん。おばあちゃん、私が課題で忙しいから全部家事してくれてるの」
「優しいおばあちゃんなんだね」
「うん。本当にお世話になってるし、ありがたいよ。あ! そうだ、おばあちゃんに連絡しなきゃ」
急に友人を連れてきちゃった。大丈夫かな?
心配しながらおばあちゃんにメッセージを送ると、おばあちゃんからすぐに返信が返ってきた。「泊りに来てくれる友達が出来てよかったね! わかりました!」と書かれていて、安堵するよりも、歓迎してくれているということに嬉しさを感じた。
そのメッセージを横で見ていた結愛が「おばあちゃんに、私が彼女だって言ったら、どんな反応するかな?」と悪戯に言った。
「言えないよ!」と慌てて言ったあと、二人で笑った。
親にだって言えないのだ。そもそもおばあちゃんが、同性愛者の存在自体知っているのかも分からない。
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