本の町 4
彼女が語る学生生活像から察するに、彼女があの時の私より追い詰められていたことがあっても不思議じゃない。
写真を撮り終わった結愛と私は、そのままブックカフェに入った。
目の前にカウンターレジがあり、その向かい側にカウンター席があった。右手には二階へ続く階段がある。
カウンターレジ前に置き看板があり、そこには白いチョークで「席を先に確保してからご注文ください」と書かれていた。なので、私たちは店内の空席を探し始めた。
このカフェに二人で読書をしながら映画の時間まで待てたら素敵だなと思ったけれど、店内は想像以上に混雑していた。
残念ながら一階は満席で、二階席も確認したけれど空いている席は見つからなかった。それどころか通路は狭く、明らかに店舗の想定している客が、一人でここに読書しに来るお客さんだった。
仕方がないので二人でその店を出て、他の場所でゆっくりできる所はないか探したけれど、どこに行っても店内は人でみっちり詰まっている。
結局いつも行っているチェーンのカフェに落ち着いてしまった。
私たちはドリンクを注文して席に着く。
デートとはいえお互い学生で、しかも課題に困窮している。事前にカフェで過ごそうと話していたので、私たち二人とも考えていることは同じだった。
私が持ってきていたノートパソコンを開いて課題に取り掛かると、結愛も、せっかく買った本も読まずにすぐに課題に取り掛かった。
彼女は教科書を取り出して記載されている問題を、指定されているページまで解き続けていた。私はノートパソコンでプレゼンテーションの原稿を用意する。
映画の時間が近づいてきた時、私たちは課題を切り上げて店を出た。
「帰る前に、多分結愛も知らないタピオカ屋さん見つけたから、そこに連れて行ってあげるよ」
「本当? そんなのあるかな? 私が知らないタピオカ屋」
「絶対知らないと思う。多分ここにしか出してない個人営業のお店だと思うよ」
実は母と来たときに偶然、公演場所へ向かう道中で見つけたお店だった。見つけてすぐに、タピオカ好きの結愛の顔が浮かんだ。
そのとき私が買ったのはいちごミルクで、実際にいちごの果肉も入った甘いタピオカドリンクだった。
その場所まで結愛を連れて行くと彼女が「本当だ。初めてみた」と言って、それだけで嬉しくなった。
私が秋季限定のかぼちゃ味のタピオカを試しに買い、結愛は定番のミルクティーを買った。二人で少しずつ交換して飲み、美味しいと言いながら電車で新宿に戻る。
映画はヴァン・ゴッホの一生を描いた伝記物映画で、マイナーであろう映画に私以外で興味を持つ人がいるとは思っていなかったので、彼女とそれを共有できる嬉しさに高揚していた。
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