本の町 3

「私、こういう話好きなんだよね。なんかさ、生まれたこと自体全てが無性に幸福っていう訳じゃないじゃない」

「勝手に生まされて、勝手に不幸になってく人なんていないみたいな、そういう感じの価値観ってよくあるよね。現に不幸に思う人はいるのにって」

「そうそう、わかる? 嬉しい。こういうこと言うだけで、よく人から引かれるから」

「分かるよ。よく将来子供欲しいとかいう人見ると、時々そういうこと考えるな」

「そういうことって?」

「生まれても、ただ虐められて、社畜化されて、不安に煽られ続けるこの世界に自分の子供を連れてくるなんて、残酷じゃないかなって」

「本当そうだよね」

 まだ学校にいたとき、小学校から高校まで私はずっとクラスメイトに馴染めなかった。いや、その学校自体に馴染めなかったと言ったほうが相応しいのかもしれない。

 その頃、私の世界は家と学校以外存在しなかった。社会がどんなものかなんて今でも分からない。それでもあの時の私の視野狭窄具合は酷かった。

 学校で馴染めないのに、この先会社で人に怒られながら毎日を過ごさなきゃならないなんて、いったいどうやって生きていけばいいんだろう? 私の未来に幸せなんてない。このまま生きていても、両親の財産を浪費して、いつかどこかで絶望して自殺するだけだ。なら、これから掛かるであろう生活費や学費を節約するためにも直ぐにでも死んでしまったほうがいい。そう思っていた。そうして毎日、自殺しない自分を意気地なしと罵った。

 自分さえ生まれなければ親に迷惑をかけなかったのに。この苦痛を知らずにすんだのに。

 今思えば、毎日を死にたい、自分なんて死ねばいいのにと思いながら生活するのは異常だと分かる。

 だから、反出生主義を唱える人の気持ちも、そういう話に興味があるという結愛の気持ちも理解できた。

 彼女が語る学生生活像から察するに、彼女があの時の私より追い詰められていたことがあっても不思議じゃない。

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