好きなもの 1

 宿題が集中していない週が久しぶりに訪れたので、週末結愛とデートをすることにした。とはいえデートと思っているのは私だけだろう。

 場所は通い慣れている新宿駅。折角だからどこか新しいところに行けばいいと思われるかもしれないが、日中は学校に籠りきりで、昼休みは一時間しかなく、授業が終わればすぐに明日提出の宿題に取り掛かり、それを終えてどこかに行こうとなると居酒屋ばかり。なので、新宿にいながら新宿の街を堪能することがあまりできていなかった。

 そこで私は一度しっかり新宿を探索しようと考え、結愛と二人で歩き回ることにした。

 新宿駅の北口で待ち合わせていると、やってきた結愛はやはり、二人きりのお出かけだからといって気合を入れて着飾ることはなかった。

 私も彼女と同じで普段学校に行くときと同じような恰好だ。黒いタイトジーンズに赤いトップスを着て、軽く化粧を施しただけ。

 会ってすぐ、まずはどこで昼食を食べようかという話になった。

 新宿サブナードの通りを歩き、見かけた雑貨屋などを見て回りながら食事が出来そうなところを探す。そのとき、結愛が天文学の本を流し見した。

 最終的に新宿サブナードにある和食屋に腰を落ち着け、注文をした後、私は結愛が本を見ていたことについて質問した。

「結愛も宇宙とかに興味があるの?」

「ん?」

「さっき雑貨屋で天文学の図鑑みたいの見てたから。私もそういうの見るの好きなんだよね」

「あ、あれね。うん。ああいうの眺めるの面白いよね」

「そういえば結愛って理系なんでしょ? 読書好きなのに理系ってなんか珍しいね」

 私は前に美和子が居酒屋で「結愛は理系だからね」と言っていたことを思い出した。読書好きで理系だという人に出会ったことがなかったので意外だったのだ。

「そうねぇ、確かに少ないのかな? 私どんなジャンルも読むからね」

「ね、それ結構すごいことだと思うよ。私純文学ばっかり読んじゃうし、私の友達はライトノベルだけとかビジネス書だけって皆偏りがあったから」

「でもどちらかと言うと私は絶対理系だな」

「そうなの?」

「数学が特に好きなの。誰にも理解してもらえないけど。例えば秘書問題って知ってる?」

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