わたると居酒屋 2
助け舟を出されたわたるは調子づいて「ほら、結愛さんもこう言ってるし」と言ってくる。
「いやいや、嫌だよ。初めては大切な人とっていうじゃん」
「ピュアだなぁ燈佳。そんなのちゃちゃっとヤっちゃえばいいんだよ」と美和子がふざける。
「いやいや、ノリ軽すぎでしょ。ヤらないよ」
「さすが美和子」と結愛が笑い「まぁ、私だからね」と美和子も笑った。
その時、初めて美和子が気づいたように「あ、でも結愛がいるか」と言った。
「え? 待って待って」とわたるは目をむいて私たち二人を見る。
わたるが人差し指で私と結愛を交互に指さすので私たちは首を縦に振って肯定する。するとわたるは次に美和子とまさを交互に指さす。二人も同じように首を振った。
「えぇ! じゃあ恋人いないのこの中で俺だけじゃん! なんだよぉ」わたるが残念がるのを見て皆が笑った。
「いいなぁ、羨ましい。俺も彼女欲しい」
「へへ、良いでしょ」と美和子はいたずらっ子の笑みでまさの腕を更にきつく抱く。
「しかも二人ヤってるんでしょ?」とわたるが美和子とまさに問いかけると、美和子は「まぁね。やることはやってるよ」と平気そうに言う。
「いいなぁ」
「大丈夫だよ。私も処女だから」と結愛は的確なのか分からない慰め方をする。
「そうなの? じゃあ結愛さん俺とヤろうよ」
「あ、そうしちゃう?」と結愛は冗談を言った。
「いやいやダメだって」
わたるが結愛にセクハラに近い発言をした時、私は内心どきりとした。
例え色恋沙汰を体感できないアセクシャルの彼女だとしても私の恋人だ。私以外の人間が彼女の反応を見て、彼女に性的な発言をしてもいいんだと思われたくない。
アセクシャルだから浮気される心配をしなくてすむと思っていたけれど、アセクシャルだからこそ心配になることがあることを初めて体感した。
彼女の方から別の誰かに心惹かれることはなくても、彼女は他の誰かから向けられる恋愛感情や性的欲求を避けようとしない。
彼女が誰かに好き勝手されるのではないかと気が休まらない。
誰かの好意や性欲を淡々と受ける彼女の行動は心が伴わない浮気行為のように感じられる。
結局この場ではただの冗談、ふざけて言っただけとして話が流れたけれど、私は結愛の態度に不信感を抱いた。
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