りんご飴 2

 二階建ての小さなビルに隠れるように、そのお店はあった。

 新品のリンゴ飴専門店という看板が壁に設置されている以外お店には全く見えなかった。その看板も隣り合った建物の陰に隠れてあまり意味をなしていない。けど、これ以上集客する必要もなかったのかもしれない。

 外付けの階段を結愛に従って登り店内に入ると、狭い部屋の中へ詰め込むようにして、二人掛けのソファーやガーデン用の椅子とテーブル、一人掛けソファー、コーヒーテーブルなどが置かれていた。

 壁には様々な雑貨がかけられていて、照明に裸電球がいくつも天井からぶら下がっている。イルミネーションで使う豆電球の照明も壁に張り巡らされていて店内は薄暗い。

 そんな狭い店内にはカップルばかりが座っていて、よくお互いこんなに狭い中、人目を気にせずイチャイチャできるなと軽蔑にも似た疑問が浮かんだ。

 カップルばかりがいるお洒落な店に、自分のような人間がいるのは目立つのではないかと自意識過剰になる。

 皆、お互いの会話や話し声が互いに筒抜けの中、店内で私だけが緊張しているようでその、場違いさが辛かった。

 人目が気になって仕方がない上に、互いの距離感が妙に近くて居心地が悪い。店というより、出来るだけ安い部屋を借りて、無理やり店にしたような感じだ。

 初めて訪れた店というだけで緊張するのに、店員の態度も「何しに来たんだこの人」とでも言いたげな冷たい視線で私のことを観察している。

 その店員が結愛に唯一開いている席を指さして、席を確保してから注文に来てくださいと言うので、部屋の端にあるガーデン用のテーブルと椅子のセットに座った。

 テーブルも簡易な鉄格子に木の板を並べて張り付けたというようなデザインで、一センチほどの隙間が板と板の間にできている。椅子も座り心地が悪く、結愛が「あの席が空いてたら良かったね」と二人用のソファーを目で示した。

 小さなメニュー表がテーブルの上に置かれていて、それを二人で眺める。

 プレーンのリンゴ飴、粉砂糖が塗されたリンゴ飴、ココアパウダーが塗されたリンゴ飴の三つがあり、アルコール類まで提供されているようだ。

「どれが食べたい?」

「私これがいい」粉砂糖の塗された白いリンゴ飴の写真を指さすと、結愛は「おっけー」と言って席を立ち、店員に注文して帰ってきた。

「こんなところにお店があるんだね。知らなかった」

「でしょ? 私も初めてきた」

「あれ? 来たことないの? 慣れてる感じだったから来たことあるのかと思った」

「そう? ここずっと来たかったんだけど、一人じゃ来れなくて困ってたんだよね。だから燈佳が私の初めてだよ」

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