初めてのキス 2
「だから躊躇とか全然ない。唇合わせるだけじゃんって感じ。もちろん特別な意味があるとは理解はしてるよ? でも普通に、そこら辺の人にしろって言われたらできる」
また同じようなことを言ってるなと朧げな頭で思いながら、私の背筋は確かに凍っていった。
その返答に美和子は苦い表情をしていたけれど、まさと向き直ってまたイチャイチャし始めた。まるでなかったことのようにしようと努めるように。
場を元の楽しかった状態に戻そうとしてくれていると思い、私もそれに便乗して冷えた唐揚げをそれとなく食べた。
居酒屋から出て皆で駅に向かって歩いている時も、私はキスのことをまだ考えていた。
彼女に嫌われたくなくて、出来る限り恋人らしいことをしないようにと心がけていた。
それは手を繋ごうとしたり、隣同士で毎回座ろうとしたりすることだった。
当然、彼女からそういう事をしてくることにも期待していなかった。だから、キスをされてから私は何か大きな勘違いをしていたのではないかと考えていた。
彼女にも友情や家族愛があって、愛事態を感じられないわけじゃない。
赤の他人にキスができるというのであれば、私がこういうことをしてみたいと言えば、協力してくれるのだろうか? 私がすべてを我慢する必要はない? けど、それは私が彼女のセクシャリティーの尊重を怠っているという意味になるんだろうか? でも私ばかり彼女のセクシャリティーを尊重して辛くなるのは、彼女が私のセクシャリティーを尊重するのを怠っていることにはならないのだろうか? 彼女と相談してみて、お互いに譲歩し合えることができるのかもしれない。けど、彼女はそもそも私と付き合う必要もないのだから、付き合っているだけで彼女にとって私のことを尊重していることにはならないだろうか? そこに苦痛は伴なっているのだろうか?
駅に向かって歩いている間、私は堪らなくなって結愛の手を握ってみることにした。
手を握りたいという思いなら、性欲ではなく彼女を思う気持ちから来た欲求だと思った。そう言い聞かせて、自分を正当化しているだけなのかもしれないけれど。
「手繋いでもいい?」
「ん? 何で?」
「繋ぎたいから」
「何で繋ぎたいの?」
「何となく」
結愛は納得のいかない様子だったけれど、私は手を差し伸べた。
彼女は気にするのをやめたのか、そのまま私に手を握らせてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます