告白 3

「うん。特に何も思わないかな。恥ずかしいとかもない。だから、いきなり痴漢とかされてもその意味は分かるけど、特になんとも。そこら辺の男の人とキスしろって言われたら多分できるもん」

「いやいや、それはしちゃだめよ。ちゃんと自分の身は守らないと。えー、純粋すぎる」

 美和子がいかに結愛が、性的なものとかけ離れた女の子かということに感嘆している間、私は内心、自分は純粋で何も知らない女の子相手に、してはいけないことをしたのではないかとまた胸を痛めていた。

 そして、誰かが彼女に性的なことをしても、彼女が何とも思わず他人にされるがままにしている様子を想像してゾッとした。

「でも結愛、そういう話するとき躊躇ないもんね」と美和子が言う。

「何が?」

「ほら、セックスとかそういう単語。私はまぁ良いとして、普通は口に出さないから。普通っていうのも失礼かもしれないけど」

「そうだねー、単語は単語でしかないから普通に言っちゃう。今は生きてきた中で、何を言って良くて、何を言ったらいけないのかとか分かってきたけど、今でも何でダメなのかよく分からないもん。」

「そうなんだ。でも、自分が理解できない社会のルールに従う人が大多数だから、大変だね」とプライドパレードなどで出会った人たちの悩み事を思い出した。

「そうね。自分がどう振舞うべきなのかとかは、できる限り学んできたかな。修学旅行とかでも、取り敢えず相槌打って聞き流してた」

「へー、そういうもんなんだね。初めて知った。勉強になるわー」

「本当? 良かった。こういうこと言うと、恋愛できないなんて可哀そうだねとか言われるから。何が可哀そうなのかよく分かんないまま、勝手に可哀そうがられて、お前に言われたくないって思うよ。それがないだけで人生楽しくないねとか平気で言われるもん」

 美和子は「そうなんだ」と友達の相談に乗る時のように真剣な趣で話を聞き始めた。結愛はそのまま続ける。

「なんか、いつも自分は何か欠けていて、人として壊れてるんだと思ってたから、もし私と同じような人がいたら伝えたいな。悩まなくていいよ。そういう人も世の中にはいて独りじゃないよって」

 声にも表情にも仕草にも、彼女が発している言葉の内容とは違って哀しみは含まれていなかったけれど、それが私には痛々しく感じられた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る