告白 2

 ラインの返信は二つ。「なるかみの ふらずとも 我もとどまる?」「和歌の返し覚えてないや。これどうしたの?」

 彼女がこの和歌を返せるくらい賢くて、こんなものを急に送っても無下にしないような、そういう優しい人であると分かったら告白しようと思っていた。そういう人だから好きになったんだと思いたかった。

 私は可笑しなライン一通を試練という形で彼女に送り付けることで、性欲のせいで彼女のことを勝手に好きになった自分のことをなかったことにしようとしていた。

 その返信の後すぐに、主に付き合ってほしいという意味の長文を送った。

 文章の内容は大体、「突然驚くと思うけれど、私結愛のことが好きみたい。急にこんなこと言ってごめんね。私も自分で驚いてるくらいなんだ。けど、アセクシャルの結愛にこんなこと言うのもどうかと思って。私に同情しないでもし興味がなかったら振ってくれて構わないから。本当、それが分かってるなら告白するなって話だけど、苦しくて。完全に、苦しいから逃れたいから告白するっていう自己満足だけど、好きなのは本当だから」というような、何を言いたいのかよく意味が分からないものだ。

 驚いたことに、彼女は「そうなんだ。びっくりした」と返信しただけだった。

 「はい」とも「いいえ」とも言わない不明確な答えに私は当然もやもやして、返事を明瞭にできないまま事態は膠着した。

 そのまま忙しい学校生活が続き、ある日の授業終わり美和子と結愛と三人で居酒屋に行った。

 私にアセクシャルであることを話して堰が切れたのか、彼女は自分には一般的にいうドキドキなどの感情が全くわからないことを美和子にも伝えた。

「そんなことある? 何がドキドキか分からないとか、まだ好きな人ができたことないだけじゃないの?」と言う美和子にすかさず私が「アセクシャルっていうセクシャリティーがあって、本当に恋愛も性欲もないセクシャリティーなんだけど、多分結愛もそれだと思うよ」と補足する。すると結愛も「そうみたいなの」と他人事のように言った。

「へ~、でもそっか、確かにそういう話いつも分かんないって言ってたね!」

 私は、さっきまでの返答と違って今度は意外にもすんなり受け入れるな、と思った。セクシャリティーというカテゴリーがあることの重要性を知った。

「だから、少女漫画で言うドキドキとかよく分からないんだよね」

「あぁ、そっか。でも少女漫画は読むの?」

「うん。話としては面白いなと思うよ。人とのやり取りとか。でもみんながしてる楽しみ方とかではないんだと思う。主人公とかに共感はできない。何か異世界の話みたいな感じで読んでる」

「ヘぇ~。そうなんだ」

「うん。だから、エロ漫画とか見ても、人ってこうされるとこうなるんだーって反応を観察してるだけで、ムラムラとかなんとも思わない」

「え、じゃあエッチなことされても何も思わないの?」

 美和子のその質問に息が詰まった。

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