初めてのラブホテル 11

「はぁ、イった」

「へえー、イく時って、息止めて力むんだね」

「いや、息止めるのは多分私の癖だと思うよ。てか、ごめんね? つまんなくなかった?」

 何に対して謝っているのか自分でも良くわからない。

「ううん、退屈しなかったよ。楽しかった。なんか興味深かった」

「そう? それなら良かった」

「うん。すっきりした?」

「うん、すっきりした。もうアダルトビデオはいいや」そう言って上体を起こす。

「え? 止めちゃうの?」

「うん。もう寝ようかなって。遅いし」

「え、いいじゃん。つけたままで寝ようよ」

「んー、いいけど、私もう眠いから寝てもいい?」

「いいよ」

 私は音量を下げて、そのまま同じところに横になった。結愛は相変わらず私がオナニーする前と同じようにアダルトビデオを夢中になって見ていた。

 次の日の朝、目が覚めると、目の前に結愛の背中と後頭部があった。昨日と同じ格好のままだ。いつ寝たのだろう?

 彼女を起こさないようにベッドから起き上がり、トイレを済ませる。

 熟睡しているように思えたけれど、戻ってみると結愛は上体を起こして重たそうな瞼を必死に開けようとしているところだった。

「まだ眠っていてもいいんだよ?」

「二度寝出来そうにないからいいや」

「そっか」そう返事をしてテーブルの上のラミネートされたメニュー表を何となく見る。

 朝ご飯を頼もうかと思って眺めていたら、食事の他にアダルトグッツの画像と使用者の感想が書かれているのを見つけた。

 どうやらルームサービスと同じように電話で頼むと購入できるらしい。

「え、結愛見てみて。ラブホっぽい」思わず結愛に声をかけると、彼女も好奇心いっぱいの顔でメニュー表を覗いた。

「へー、バイブも売ってるんだね」

「私欲しいかも」

 昨日のことも手伝って、結愛に自分の性欲に関して開けっ広げなることに、道徳的な抵抗を比較的感じなくなっていた。

 その上、結愛に話す時なら性の話題に付き纏う厭らしさも、なくなるような気がした。

 けれどそれは同時に、アセクシャルだからいいよね、とまるで何をされているのか理解できない幼子に性的行為を働いているような後ろめたさもあった。

「じゃあ買ったら良いんじゃない?」

「え、でも注文したら店員が届けに来るんでしょ? それは嫌だな」

「なら、私が注文してあげるよ」

「え? 恥ずかしくない?」

「え? そんなことないよ。ただ店員に、あ、どうもーって玩具受け取ればいいだけだもん」と結愛が笑う。

 恥ずかしいことを敢えて彼女にはさせまいと、雄雄しく立ち向かってくれる男性のような発言に思えて私はドキッとした。

「でもいいよ。親のお金でこれはさすがに買いたくないし」

「あー、そっか。バイトしてないんだもんね」そう言って少し困ったような、決めかねたような顔をしたまま、結愛はメニュー表をテーブルの上に置いた。

「何か食べる?」

「お腹空いてないからいいや」

 私も浪費したくはなかったし、寝起きでまだ空腹感が麻痺していたので我慢することにした。

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