初めてのラブホテル 4
「理解できない?」
「うん。恋愛とか性欲とか分からないんだよね。少女漫画とかにあるドキドキとか。読んでて面白いとは思うけど共感は全くできない。なんか異世界の話って感じ」と彼女が屈託なく言う。
「そういうセクシャリティーあるよ。名前なんだったかな?」
私はスマホで思い当たるセクシャリティーの名称を探しだした。
中学三年生の時、私は女性に恋をした。
私自身その一度以外、男性以外に恋愛的な好意を抱いたことがなかったので、好きだと自覚したときは衝撃を受けたけれど、それ以降セクシャルマイノリティーについて積極的に調べたり、プライドパレードに参加したことがあった。
そのおかげで、記憶の片隅にセクシャルマイノリティーの中でもかなり少数のアセクシャルについて覚えがあった。
「うん。私もネットで見たことある。よく覚えてないけど」
「あ、これだ。アセクシャル。ほら、読んでみて」
私はアセクシャルとは何かという内容が書かれたウェブページを開いて結愛にスマホを渡した。結愛は素早く画面をスクロールして「そうそう、これ」と言ってスマホを返してくれた。
「でも私アセクシャルなのかな?」
首を傾げる結愛を見て、このセクシャリティーなのだと決めたくないのか、このセクシャリティーであるというはっきりとした自覚を感じないのか、どちらなのか分からなかった。
「自認してないだけじゃない? アセクシャルだと思うけどな。だって、生まれた時から恋愛感情も性欲もないんでしょう?」
「うん。でも家族愛とか友情は感じるよ? 恋愛感情だけ」
「ならアセクシャルだと思うけどな」
「それよりびっくりした。疑わないんだね」
「どういう意味?」
「こういうこと人に言うと、大抵まだ初恋してないだけとか、恋がどの感情かわかってないだけなんじゃないかって信じてもらえないの」
「あぁ、そういうことか。んー、確かに私は知ってたから分かったけれど、聞いたことない人だとそういう反応になるのも分かるな」
「そうなんだよね」
「それに、アセクシャルってセクシャルマイノリティーの中でも更に少数派だもんね」
「うん。今まで私みたいな人に会ったことないし、ネットで検索してみても私みたいな人の話ないし」
実際、今スマホで検索した時も十件ほどのウェブサイトしか検索欄に出てこなかった。アセクシャルに関連する情報が圧倒的に少ない。
「自分が変なのは分かってるの。人間として未完成みたいな気がして。性欲なんて人間にとって必要なものだし」
「あぁ、人間の三大欲求は食事、睡眠、性欲って言うもんね」
「そうなの。なんか人間として性欲がないなんて信じられないって。酷いと、恋愛できなくて人生なにが楽しいの? て言われる」
「え。それは酷いね。別に恋愛で人生の幸福まで決まらないでしょう」
「そうだよね。別に他にもやることいっぱいあるのに」
「そうだよ。恋愛しないで独身で楽しく生きてる人いっぱいいるじゃん」
「そうねぇ、今はそう思えるけど、昔は結構悩んだな。ネットで自分と同じような人を探しても、全然見つからなかったし。ある日そのことお母さんに話したら、『何言ってるの、あんたは。混乱してるだけでしょ』て言われた」
「え、そうなんだ。辛かったね」
高校を中退させて言語学校にまで行かせてくれた私の親は常に私の味方だった。なので、女性に恋をしたことがあることは告白したことがないけれど、それでも母が私の感情を拒絶する様子は想像できなかった。
こういう告白は常に本人が熟考し、悩み抜いてやっと出す結論の結果だと思う。だから、母親に簡単にあしらわれたことが如何に辛かったかと思うと心が痛かった。
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