初めてのラブホテル 3

 彼女が集中して読んでいる間、注文した料理が運ばれてきたけれど「気にしないで、温かいうちに食べて」と言いながら結愛は私の小説を読み続けた。

 それでも一人で先に食べるのは失礼だと思い、そのまま待っていた。けれど、結愛が何度も食べてと催促するので、私を待たせてるという罪悪感を抱かせたり、催促し続けなければならない心象を想像した私は思い直して先に食べることにした。

 不思議なことに、食べている間お互い全く話をしていないにも関わらず気まずく感じることはなかった。

 私の小説を読み続ける彼女の、画面をスワイプする仕草で、彼女が次章にどんどん進んでいることが分かる。

 ありがたい反面、出版社の校正係に読まれているようで、自身の緊張がどんどん高まる。から揚げを箸で食べようとしても、関節が上手く動かなくって、それを隠すように代わりに焼き鳥を食べた。

「全部読み終わったよ」

「すごい。読むの本当に早いね」

「慣れてるからね」そう言って結愛は私のスマホを返して卵焼きを食べ始めた。

「あ、ごめん。読みながら一人で食べるの気まずかったでしょう?」

「そんなことないよ。小説全部読んでくれてありがとう。食べ物冷めてない?」

「ううん。まだ温かいよ」

 食事中、彼女は私の小説についての感想を聞かせてくれた。

 この作家の作風に似てる、と初めて聞く作家の名前を教えてくれたので、私はスマホにメモをとった。今度読んでみると言うと、おすすめの作品を教えてくれた。

「そういえば美和子が今夜何するか知ってる?」

「ううん、知らない」

「そうなの? 美和子のことなら殆ど知ってると思ってたんだけど」

「いつもは知ってるけど今回は知らない」

「美和子抜きで出かけるの初めてでなんか変だね」

「ね。ずっと二人きりで出かけたことなかったもんね」

「今日結愛のこと沢山知れて良かった」

「私も」

「それにしても美和子がまさとセックスしていたとは驚き。まさ私より年下だよ?」

「恋するってそういうことなんじゃないの?」

「そうなの? 早すぎると思うけど」

「きっと一目惚れだったんだよ」

「そうかな?」

「ふーん。変だと思うかもしれないけど、実は私、恋とか理解できないんだよね」

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