まさとわたる 2

 外はすでに暗くなっている。道は相変わらず人で一杯になっていて、その中をいつもの居酒屋に向かって進んでいった。

 ただ、着いてみると居酒屋は満席で、どうするのだろうかと思っていると美和子がすぐ近くに同じ店があり、その位置を知っているというので彼女についていった。

 この時初めて新宿では徒歩圏内に同じチェーン店の居酒屋がいくつも点在しているものなんだと知った。

 入店して席に着くと美和子と結愛は早速アルコールを注文し始めた。

「わたるお酒飲むっけ?」

「いや、俺はお茶でいいや」

「あれ? でもわたる成人してるよね?」

「うん。俺二十一。だけどお酒飲めないから」

「燈佳は飲む?」と当たり前のように美和子が聞いてくる。

「いや、いい」

「まさは飲む?」

「あ、飲んでもいい?」

 明らかに未成年の彼が飲む気でいるので驚いた。

「いいよ。何がいい?」

「じゃあ赤ワイン注文してくれる?」

「はいよ、赤ワインね」

 まさが飲むのを誰も止めようとしないのには更に驚いた。

 確かに美和子が飲むことには慣れていたけれど、まさは私より明らかに若い。はた目から見ても間違いなく未成年だ。

 明確な線引きの理由を説明出来ないけれど、まさほど若い人がアルコールを飲むことはいけないことの気がした。けれど誰も抗議する様子がないので私も何も言わないことにした。どうせ私自身には関係のないことだ。

「まさ何歳なの?」と美和子が聞く。

「十六歳」

「燈佳より若いじゃん!」

「え、燈佳さんは何歳なの?」

「十七歳」

 へぇ、と驚くまさに美和子が「二人とも同じ年に生まれたの?」と聞いてきた。

「誕生日いつ?」

「私、六月」

「じゃあ、俺より年上なんだ。俺、誕生日は三月」

 店員がテーブルにやってきて、お酒とお茶を置いていった。各自自分の飲み物を手にとって飲み始めると美和子がまさの赤ワインを見て「よく赤ワイン飲めるね。私まだ苦くて飲めないんだよね」と言った。

「あぁ、でもそのうち味に慣れるよ」

「いつから飲み始めたの? 私も未成年だから人のこと口出さないけど」

「十二くらいからかな。母親が俺の行動が問題なければ飲んでもいいって許可してくれた」

 へぇー、とそのまま美和子がカクテルを飲み始めたので気になった私は「美和子はいつから飲み始めたの?」と聞いてみた。

「いつからかは覚えてないけど小学生の頃、母親が免疫力をつけるために飲んでみなって言ってたから、その時から飲んでたことは覚えてる」

「小学生から⁉」

 これには流石にみんなも驚いた。

 料理が運ばれてきて、わたるとまさと打ち解けあってきた頃、美和子と結愛の酔いがまわって皆の会話がよく弾んだ。時間が経つのがとても早く感じ、家に帰らなければいけないことをとても惜しく感じた。それくらい皆と話すのが楽しかった。

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