まさとわたる 1
あの日、美和子と結愛と居酒屋に行って以来、昼食や夕食を一緒に食べに行くのが日常的になった。
語学学校の授業は午前と午後に二回ずつ授業があり、その間に一時間の昼休みがる。
そして授業の後は大抵、期限が明日までの宿題に加え、数日後が締め切りのプレゼンテーションや学生論文作成の課題をやることに時間をほとんど使う。閉館時間間際まで校内に居残り、それに取り組むのが私たちの日常だった。なので、二人と共に行動するようになってから、昼食や夕食を外食で済ませる機会が圧倒的に増えた。
三人で昼食にファミリーレストランへ行ったり、ちょっとお洒落なイタリアンに行ったり、近くのスーパーやコンビニで軽食を買って、校内で食べたりした。そうして金曜日になると毎回三人で居酒屋に行く。そうやって一緒に過ごしているうちに仲が深まり、私は二人について更に学んだ。
美和子は酔うと顔を真っ赤にするが、結愛は酔っても普通の顔色をしているので傍から見ても分からない。
美和子は学業に集中するため、六人もいたセフレと徐々に縁を切っていった。
私たち皆一人っ子で、二人は実家通いだという。結愛は、「東大に行けないと落ちこぼれ」という神話を生徒皆が信じている名門私立高校出身だった。
美和子は中国人と日本人のハーフで実家は裕福。使っている学校鞄もブランド物だと教えてくれた。
二人が裕福であることについて私は特に驚かなかった。語学学校の学費を考えれば恐らく私以外みんな裕福層だと思う。クラス内で「あの子は社長の息子らしいよ」という噂もよく聞く話だった。
勿論食事の時だけでなく学校内でも一緒に過ごすようになった。何せ殆どの時間は宿題を終わらせるために校内に居残るのだから。
金曜日のある日、自習スペースで、いつものように皆で勉強をしていると男子二人が入ってきた。二人が部屋に入るなり、そのうちの一人と美和子がお互いに「あ!」と声を上げた。
「美和子さん! お久しぶり」
「わたる! 久しぶり。元気してた?」
「元気、元気」
「こっちおいでよ」と美和子が手まねきをする。
私たちが座っていた席に二人が近づくと美和子は結愛と私にその人を紹介してくれた。
「この人はわたる。クラス替え前、同じクラスだったの」
「こんちは、わたるです。はじめまして」
わたるは私より少し背が高かった。身長はおそらく百七十センチくらい。少し細身だ。黒い短髪で白いシャツにデニムの長袖ズボン、白いスニーカーを履いている。学校鞄は黒いリュックだ。
「燈佳です。よろしく」
「結愛です。よろしくね」
「よろしく。こっちはまさ」とわたるは横に立っているもう一人を指差した。
「この人は俺のクラスメイトでいつも一緒に遊んでるんだ」
「はじめまして」
最初に抱いたまさの印象はパンクロッカーだった。黒い小さなキャリーケースを学校鞄として使っている。身長は百五十七センチくらいで、ややぽっちゃり気味。肩まである長い髪を明るい茶色に染めていて、それを左右に分けていた。黒いシャツに黒い革ジャン、ダメージデニムのパンツにスパイクのついた黒いブーツを履いている。明らかに若い。おそらく私より年下だろう。
「久々に、一緒に外で食べようよ」と美和子がわたるに提案する。
「いいね」わたるが興奮した様子でまさを見ると、さまも「俺も暇だからいいよ」と言う。
後日提出する宿題はすでに終わっていたものの、数日後に控えているプレゼンテーションの作成で煮詰まっていたので、これを機に一度切り上げようと私たち三人はすぐに片づけに取り掛かった。新しい友達ができるチャンスかもしれないという密かな思いが私の片づけをより速やかに終わらせた。
荷物をまとめ終え五人で校内を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます