初めまして 3

「私、自分の見た目が魅力的じゃないのは知ってるのね。けど私セフレがいるんだよね」

「そうなの? へぇ、そうなんだ。セフレ持つ人に初めて会った」

「引かない?」

「いや、そんなことで引いたりしないよ」

 周りに性交をしたことがある人すらいなかったので、セフレがいるという人と出会ったことに驚いた。けれど人の考えは出来る限り尊重し合うべきだと思っているので、自分の考えが侵されるようなことがない限り、人の考えにどうこう言うつもりは全くなかった。

「ほら、言ったでしょ」と結愛が美和子に言う。

「さっき結愛に話していたことなんだけど、私のセフレのことなんだ。実はね、私六人のセフレがいるんだけどさ」

「六人? すご、一人でも珍しいのに?」

「だよね。美和子多いよね」

「いやぁ、私人より性欲が強いんだよね。実際本当に強い」

「どうやってそういう人を見つけるの?」

「それ聞く? わかんないなぁ。友達の友達経由で何人か知ってる。私がセフレ欲しがってるの知ってるから」

「へぇー、すごい新鮮。興味深い。私もっとそういう話聞いてみたい」

「そうなの? じゃあ下ネタの話、してもいい? 酔っぱらってるからか、したいんだよね」

「どうぞ、どうぞ。私も下ネタ好きだから」

 私は美和子に、セフレについて思った疑問を質問した。ホテルへ行く前に食事はするのか? そもそもお金を払ってセックスする時もあるのか?

「一緒に食事をすることもあるけど、恋人というより、友達と一緒にいるようなものだね」「お金は一切払ってもらったことないな。ホテル代たまに俺が奢ってやるよってこともあるけど、いつも割り勘だし」

 結愛が「セックスって気持ちいいの?」と聞いた。

「セックスしたことないの?」

 私たち二人とも首を横に振る。

「へぇ、女の喜びを体験してるって感じだよ。すごい気持ちいい。病みつきになるよ」

 結愛はまるで、先生の話を聞く生徒のように興味深げに聞いている。

「そんなに? 本当に?」私は眉を顰めた。

「燈佳も処女なの?」

「もちろんだよ! 何歳だと思ってるの」

「私と同い年? 十九歳?」

「いや、十七」

「十七⁉」二人の目が大きく見開かれた。

「もっと年上かと思ってた」と言う美和子に結愛が頷く。

 美和子と結愛はお互い顔を見合わせながら「若いね」と言いあった。

「ということは、大人なのは結愛だけなんだ」

「え、そうなの?」

「変なの。結愛、私たちの中で一番若く見えるのに、実は一番年上なんでしょ?」

 私は美和子の言うことに強く同意した。結愛は私たちの中で一番背が低く、体型も細い。十七歳と言われても誰も疑わないだろう。アニメ声もよりその印象を強調している。

「でも不思議だね。私最初、燈佳のこと優等生だと思ってたから、友達にはなれないと思ってた」と美和子が言う。

「そうなの?」と私は、結愛が首を縦に振るのを見ながら返答した。

「別に優等生じゃないし、美和子も授業中によく喋るじゃん」

「あぁ、だってクラスであまり喋らなかったら損じゃん」

「あぁ、わかる。高い授業料払ってるしね」

「そうそう」

 海外大学に行かせますという語学学校だけあって授業料は高額だった。それは、みんな本気で海外大学に行こうとしている証でもあった。

「私気の合う人ができてよかったわ!」と美和子が言う。

「私も! 友達できて嬉しい。私なんとなく人付き合い苦手だからさ」

 もちろん前の学校では変人扱いを受けていたので友達らしい友達はいなかった。休憩時間はいつも小説を読んだり書いたり、絵を描いたりして過ごしていた。語学学校に入った後は海外大学に入学するという明確な目標が出来たので、勉学を猛進するだけで毎日が充実していた。友人がいないことを気にしたことはなかったし、出来ても自分の時間を奪われるだけだと思い込んでいた。

「それは多分、みんな燈佳のこと真面目な人だと思ってるからだと思うよ」と結愛が言う。

「確かに。勉強以外興味なくて、人生の一秒たりとも無駄にしません。みたいなね」

「いやそんなことないよ。真面目かもしれないけど私だって完璧じゃないもん」

「でもいつも授業中自信満々に発言してるし宿題も欠かしたことないじゃん」と結愛。

「そうそう、だから今こうして一緒に食事してることに驚いてるんだよ」

「そう言ってもらえると嬉しい」

 玉子焼き、ポテトサラダ、焼き鳥、から揚げ、アイスクリームを食べ、美和子と結愛は飲みながら、三人で談話を楽しんだ。

 だから、珍しく十二時近くになっても家に帰りたくないと思った。

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