初めまして 2
店員に案内されて席に着くと、テーブルの上にはタブレットが置かれていて、そこから注文ができるようになっている。お互いの声が少し聞こえ辛いくらいの騒々しさも重い空気と臭いも、不思議なことにすぐ慣れた。
「どうしよう。飲んでもいい?」と美和子がタッチパネルに映るお酒を見ながら結愛に聞く。
「金曜日だし、いいんじゃない?」
「いっか! あ、そういえば私未成年なんだけど、燈佳は私が飲んでも気にしない?」
今まで、未成年なのにお酒を飲んだり煙草を試そうとする人に出会ったことがなかったので驚いた。もちろんそういう人たちが世の中にいることは分かっていたけれど、実際にそういう人に出会うと思っていなかったし、そういう事をする人は不良だけだと思っていた。
「まぁ、私が飲むわけじゃないし良いよ」
けれど、美和子も結愛も悪行をするような人たちではなさそうだったので、美和子がお酒を飲むことをわざわざ咎めようとは思わなかった。都会ならそういう事もあるのかな、とすぐに考え直せたし受け入れることが出来た。自分のことでないなら良いかと思ったのが大きかった。
「そう? よかった」
「でも、身分証とかどうするの?」
「ん? 普通聞かれないよ」
「あ、そうなんだ。へぇ」
美和子の言った通り、タッチパネルで飲み物を注文して暫く経つと店員は何も言わずにアルコールの入ったグラスをテーブルに置いていった。
私は烏龍茶を頼み、美和子と結愛はカクテルを頼んだ。
「飲んでみる?」と結愛が持っているカクテルを進めてきた。
「いや、私は大丈夫」
正直、お酒を飲みたいとは思わなかった。好奇心に押されてお酒を飲む人がいるというけれど、私にはそういう気持ちは全く湧いてこなかった。
昔、葬儀の会食で皆が一斉におちょこを手に取って飲む場面に出くわした時、子供だった私はどうしたらいいのか戸惑い、そのまま日本酒を飲んでしまったことがある。アルコールの入ったチョコレートを食べたこともあった。その時のお酒の味は正直不味いもので、鼻から抜けるアルコール臭が不愉快だった。そもそもアルコール依存症の怖いイメージもあったので、尚更飲もうとは思わなかった。
「本当? ジュースみたいで大したことないよ?」
「やぁ結愛、やめときなよ」
「そっかぁ」
「私たち、無理やり飲ませたりしないから。自分たちだけ自分の責任で飲む人たちだから安心して」
結愛は天然なのか気分が向上しているのか、悪気は全くなさそうだったので、私も特に警戒することなく「いやぁ、お酒お葬式とかで飲んだことあるけど、全然美味しくなかったから」と断った。
頼んだ食べ物も直ぐ運ばれ、私たちは課題や先生への不満、なぜ語学学校に来たのかなどの話をした。交換留学ならよく聞く話だが、正規留学生として海外の大学を目指すのは珍しい。その動機に興味があった。
美和子はまだ大学に行きたくないと思っている時、この語学学校に通っている先輩に紹介され、海外大学は日本の大学の授業風景と違うと知って、それできたと言った。学校の評判を聞いて、自分は英語が苦手ではないと気づいたので語学学校に行くことにしたそうだ。
結愛も同じようなことを話してくれた。日本の大学には行きたくなかったので、先輩から聞いた語学学校に行くことにしたと。
二人が酔い始めると美和子が結愛に何か聞き始めた。
「燈佳はこの話題大丈夫かな?」
結愛は首を縦に振る。
「そう思う?」
「どんな話題?」私が聞くと美和子が私の方に向き直ったので私も姿勢を正した。
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