入学 2
行きたい大学や学科はまだ確定していなかったので、まずはそれを決めることにした。
自分で何かを調べたりプレゼンテーションをすることが好きだった。なので、そういう活動が多い大学や学科は何だろうと考え、英語やグローバル化に力を入れている大学が思い浮かんだ。
すると、海外留学や英語指導を重視していると宣伝していた大学が、新宿で開かれる大学進学相談会のイベントに参加することを母が見つけてくれ、一緒にイベントに行くことにした。
大学のブースに話を聞きに行くのが今回の一番の目的だった。けれど、ウェブサイトなどで得た印象と対話したときの印象は全く異なっていた。
ブースには五十歳程の太った男性と二十代女性の二人が座っていた。
女性は大学の広報を担当している者だと自己紹介し、隣に座っている人を理事長だと紹介した。理事長は組んだ腕を解くこともしないで頭だけを使った会釈をした。
その女性が一生懸命、丁寧に大学の授業体系の特徴などを説明してくれている間、理事長はただ黙って彼女の説明する様子を眺めたり、何かに気を取らたように別の方向を見ていた。
「何か質問はありますでしょうか?」と聞かれたので、「高卒認定は受験資格に使えますか?」と聞くと突然、理事長が前かがみになり初めて私たちに興味を示した。
「え、高認ってことは今娘さん高校に行ってないの?」
「いえ休学中です。ただ高校を退学することも考えていまして」と母が丁寧に返答する。
「いやぁ高認はねぇ。うちはそんなに甘くないですよ」
納得できないという様子だった。
女性は明らかな苦笑いをしてから「高卒認定試験も受験資格に使えますよ」と返答した。それ以外の質問もなかったので私たちは席を立った。
大学のウェブサイトやパンフレットを読んでいた時はグローバル化の進んだ素敵な大学だと思っていたけれど、理事長の様子からして、そこに勤める人々の思考まではグローバル化が進んでいないらしい。
まただ。
ピアスをしたり、絵を描いたり、海外移住に興味を示したときに見せる周りの見下す反応。そういう反応を理事長ともなる人がしたとなると、その大学に行こうという気にはもうなれなかった。
別に日本の教育を馬鹿にしている訳ではない。ただ相性の問題で、私はどうしても能動的な授業体系をとっている大学に行きたかった。それが私の中ではグローバル化に一番近いだろうと思ったのだ。
予想と違った校風に落胆して帰ろうとしたところ、母が「せっかくだから他のブースも見てみよう?」と言語学校のブースを指さし、私を誘ってくれた。
幻滅していた私はそのまま帰りたかったけれど、東京まで来たこの機会を逃すのも損だと思い直し、話だけでも聞いてみることにした。
丁度説明を受けていた親子が席を立ったので、私たちはそのブースに座っている男性に話しかけた。
二十代後半の男性一人だけだったけれど明朗快活な人柄が彼のよく通る声によって伝わり、他の大学ブースに引け目をとらなかった。
説明をする時もパンフレットを母に見せながら説明しつつ、どの科目に興味があるかなどを私に質問して、子供である私のことも気にかけてくれた。
そうして説明を聞いているうちに私にはその言語学校がとても魅力的に思えてきた。
言語学校なので、学校の目標は生徒の英語力を充分鍛えてから海外の大学への進学を支援することだった。そうして彼は海外大学の魅力を語ってくれた。
海外大学では日本の大学と比べて更に細かく学科が分かれており、自分の好きなことを比較的専門的に学べる。入学試験もないので英語の勉強さえできれば大体の大学に入学できる。
一番魅力的だったのは言語学校では、海外の大学に備えた授業を提供しているということだった。
海外大学院を卒業した海外出身の講師たちが全て英語で授業を行い、生徒たちは英語で学生論文を書いたりプレゼンテーションをしたり討論をするとのことだった。
私がずっとやってみたかった授業体系そのものだった。
他の大学のブースも一通り見学した後、母と私は早めの夕食をとるためレストランに行った。
食事をしている間、私たちはどこの大学が良さそうだったかを話し合い、母も私も言語学校が一番魅力的だったと意気投合した。
なので、学校の授業風景を実際に見学して入学するまでに大した時間は要しなかった。
入学してからまず英語テストを受け、その点数によってクラス分けがされた。
私は上から二つ目のクラスだった。けれど三学期制を採用している言語学校だったので直ぐに二回目のクラス替えが行われ、私は一番上のクラスになった。
勉強することに熱中していたし、海外大学に入学するという明確なゴールが見つかって毎日の勉強が楽しかった。
そうして最後のクラス替えが行われた時、私は初めて結愛に出会った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます