初めてのラブホテル 1
寝不足で身体的にも精神的にも疲弊していた私たちは、毎晩のように居酒屋に行き、なんとか厳しい時間割を持ち堪えていた。
華やかで刺激に溢れた歌舞伎町に位置する言語学校に通っていることも影響して、居酒屋通いが日常的になってきた頃、私は心機一転しようと思い、皆で映画を見に行こうと考えていた。
朝のニュースに取り上げられる程話題になっている洋画の公開日が今日なのだ。しかも丁度金曜日ということもあり、映画を見てから皆で居酒屋に行けるのではないかという期待もしていた。けれど、授業終わりに美和子と結愛を誘うと予想外の返答をもらった。
「ごめん。今日譲れない予定があるんだわ。二人で行ってきなよ」
美和子に断られるのは予想外だった。
私は少しだけ駄々をこねるように粘ってみたけれど彼女は譲ってくれなかった。
二人で行ってきなよ、とは言われたけれど、正直盛り上げ役の美和子がいないなら結愛と二人きりで行くより一人で映画を見て帰りたかった。
思えば私が結愛に対して直接話しかけたことは殆どない。大抵美和子が会話の中心で、私と結愛がそれに意見を挟んだりしていたので、私と結愛は美和子を介して話しているような状態だ。だから、二人きりになると思うと話すことが全く思い浮かばない。仲が悪い訳ではないけれど、なんとなく気まずい。
「私もその映画興味あったんだよね」
私の気持ちなど露知らず、結愛は既に一緒に映画を見る気らしい。言い出した私が今更引くわけにもいかなかったので、私たち二人はリュックを背負った不恰好な状態で新宿の大きな映画館に向かった。
意外にも、結愛は気まずそうな様子を一切見せない。
映画館に向かって歩いている途中も結愛が私に話しかけてくれたから、話の種がなくて困るということはなく、会話が途切れることもなかった。
映画館でチケットを買い、トイレを済ませても、入館時間までまだ三十分もあった。
その間、結愛は映画に行くのが久しぶりだと話してくれたり、虹色に砂糖が塗されたチェロスを一本買って二人で分けて食べたり、映画のグッツを二人で見て回ったりした。入館して席についた後も映画の内容を二人で予想し合った。
結愛の様子から察して、私が予想していたより、結愛は私に心を開いてくれているらしい。そう分かると、私の緊張も徐々になくなり、彼女との時間を楽しむことが出来た。
こうなるとは予想していなかったので内心帰宅しなくて良かったと思った。
肝心の映画は素晴らしかった。
映画が終わってシアター内の照明が徐々に明るくなると、それにつられて映画の余韻から徐々に現実に引き戻される。
映画終わりの直後のこの時が一番気まずいんだよな、と思いながら明るいシアター内で流れるエンドロールを眺めていた。仲のいい人相手でも、この瞬間何を言ったらいいのか何となく分からなくなる。
新宿の大きな映画館ということもあって、シアター内は人々の雑踏と、合唱となった話し声で満たされていた。
私たちは、大きなリュックを背負っていることもあって、後列のお客さんが出ていくまで席に座って待っていた。
待っている間、結愛が私に映画の感想を聞いてきたので、私はつい饒舌になって自分なりの見解を語ってみた。そうして話している間、自身の話が長いことに気づいた。こういうことをすると鬱陶しがられるかも。そう思い直し、最後の方は話を短く切り上げた。
けれど、結愛も映画後の熱に
「映画を見て感想を言い合える人が、なかなかいないから嬉しい」心からそう思った。
「本当? 私もそう思ってた」
その時から結愛は仲のいい友達の友達ではなく、私の友達になった。
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