ささくれの妖精

ささくれの妖精

　あなたの指先にできるささくれはわたしの仕業です｡全部わたしのせいです。

　わたしはあなたの指先にささくれをつくる妖精です｡あなたの指先にささくれをつくるために存在していて､あなたの指先にささくれをつくらなければ消えてしまいます｡

　あなたはわたしを､ささくれをどう思いますか?いじらしくて､痛くて､とっとと消えて欲しいとすら思いますか?

　それこそがわたしの存在意義なんです｡

　あなたがささくれを見つける時､あなたはささくれに一瞬でも関心を持つことになります｡そしてあなたがささくれを意識する時､あなたはあなた自身のことを意識しています｡ささくれを取ろうと引っ張る時､ふとしたことをきっかけにささくれの痛みを感じる時､そういえばあのささくれはどうなったかななんて考える時､あなたはあなた自身を意識できるのです｡

　わたしはあなたの指先にささくれをつくることで､あなたをあなたに意識させるために存在しています｡あなたはあなた自身を意識する必要が少なからずあります｡周りのことを考えるのは大切なことですが､それは自分のことを考えることをなおざりにしていいという理由にはならないのです｡あなたは誰よりも幸せにならなければならないのですよ｡それも､主体的に｡あなたはあなた自身を大切にして､幸せに向かうべきなのです｡そのきっかけをわたしはつくらなければいけません｡

　わたしやささくれが嫌われたりするのも仕方がないです｡というよりかは､ぜひわたしを憎んで､嫌って､ご自身を愛してください｡

　あなたに嫌われるためにわたしは存在していて､あなたに嫌われるなければ意義がなくて､わたしはあなたの害で､そうでなければ存在も危うくて､それでもわたしは存在していたいのです｡

　わたしのためにあなたがあなた自身のことを愛していて欲しいだなんて､わたしを嫌って欲しいだなんて､自分で言っていても何故こんなにも歪でしかいられないのだろうと思います｡

　でも､それがわたしの存在する術なのです｡