空白の部屋にて
佐々木
第1話
どれくらいの時間が経っただろうか。
僕は、外の世界を見たことがない。
10畳ほどの部屋に壁に窓は無く、天井も床も壁も全てが真っ白で無機質な部屋に僕は生きている。
部屋の中には何一つなく、僕以外の生き物も存在しない。僕は、こんな奇妙な部屋で何年も過ごしている。
不思議と空腹にはならず、排泄の必要もない。
この部屋の奇妙さはこれだけではない。
時折、人が現れるのだ。どこから入ってくるのか、どこから出ていくのか、何の目的で現れるのか。
僕には何一つ分からないが、不定期に現れては消えてゆく。
何も言わない人もいれば、何か僕に訴えてくる人もいる。
しかし、彼らの声は僕には聞こえない。
何かを伝えたいのは分かるのだが、何を伝えたいのか僕には分からないのだ。
他にもこの部屋には奇妙な点がある。
部屋の明るさ、色、温度が時々変化する。
明るく晴れやかな時もあれば、暗くどんよりとした時もある。
真っ白なことがほとんどだが、たまには赤くなったり青くなったり黒くなったり緑になったり。
心地よい温度になる事もあれば、薄気味悪いひんやりとした温度になる事もある。
実に表情豊かな部屋だ。
さて、今日もお客さんだ。
「こんにちは」
当然、返答はない。
今日のお客さんは、中年の男性で手には槍のようなものを持っている。
無表情にこちらを睨みつけ、何かをつぶやいている。
「何か不満なことでもありますか?」
やはり答えは返ってこない。
次第に部屋の温度が上がっていき、暗くなっていく。
部屋中の色が赤黒く変色し、とてもいい気分とは言えない。
すると、彼は突如として手に持っていた槍を振り回し始める。
僕は彼の振り回す槍から逃げるので精一杯だ。
僕がよける度に壁や床、天井を切り付ける。
その傷跡からは赤くドロドロとした血液が流れ出る。
僕は恐怖した。
部屋の隅で丸くなり、彼がいなくなるのをじっと見ているしかなかった。
部屋中が血まみれになり、至る所が切り裂かれている。
ようやく満足したのか、彼はいつの間にかいなくなっていた。
明かりのない青黒く冷え切った部屋の中で、僕は一人、泣いていた。
空白の部屋にて 佐々木 @mkshts
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。空白の部屋にての最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます