赤い惑星
白兎
赤い惑星
トーニャは、遠い日の事を思い出していた。ここから見える景色は、ただ赤い砂ばかり。そして、平安と静けさだけがあった。あの過去の出来事が、まるで嘘のように。
赤い砂のこの惑星に辿り着けた者たちは、居住できる空間を作り、幾つもの透明な半球型のドームを繋ぎ、コロニーを形成した。トーニャたちの住んでいた青く美しい惑星はもうどこにもなかった。彼らが惑星の資源を使いつくし、環境を破壊し、放射線から惑星を守っていたオゾン層もなくなった。それらは、長い年月をかけて徐々に変化していったのだが、ついに、惑星の最後の時が来てしまったのだ。更なる資源を求め、惑星のコアまで掘ってしまった。それが惑星の爆発を誘発したのだった。
「大変なことが起こりました!」
テレビのニュースで、どこかの大国が惑星のコアまで掘った事が原因で、この惑星の爆発まで数日という予測が立てられた。もちろん、誰もがその大国への批判の声を上げたが、そんなことをしている暇などなかった。他の惑星への移住計画を進めていた各国は、大慌てで、要人の移住の準備を始めた。その惑星には七十億もの人々がいる。しかし、惑星を出ることが出来る者は限られていた。国の要人、大富豪、それと、研究者たちや、医者といった、必要不可欠な人材を選別して、青い惑星から旅立ったのだ。
トーニャの両親は科学者であり、その子供であるトーニャは十歳にして既に、その分野での研究者として頭角を現していた。だから、今こうして、無事に脱出できたのだった。しかし、心にわだかまりは残る。彼らが特別な扱いを受けて、惑星から飛び立つのを、恨みがましく、また、命乞いの為に叫ぶ者たちの声が耳から離れない。
移住先となった、今の赤い惑星から、故郷の美しい惑星が花火のようにキラキラと輝きを放ち、散っていく様を見たのだった。トーニャの胸は張り裂けそうになった。
その光景を見た者たちは一様に、心はささくれ立つのだった。
赤い惑星 白兎 @hakuto-i
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます