2章 53話

「ヤバイ……どうしよう」


 まこと君と付き合う事になった。いや、うん、嬉しいけどね。それは良いんだけどね、改めて考えると凄い状況だよね。

 もう今更なんだけど、どこまで行っても見た目と気持ちはモブな私。これからどうして良いのか分からない。

 佐々木鏡花ささききょうかと言う存在は、恋愛なんかと縁遠い筈だったのに、気がつけば歩む道だけはキラキラメインヒロインルートを歩いている。


 残念ながらゲームじゃないから、攻略wikiも攻略動画もない。自分で考えて行かないといけない。

 自分で書いてる創作のヒロインなら好きにすれば良いけれど、私は現実を生きているからそうは行かない。


「と、言うわけなんだよ」


  鏡花はいつもの様に佳奈かな麻衣まいの2人に相談する事にした。帰宅して暫くは真の告白に身悶えしていた鏡花だが、落ち着いて考えてみると、恋人関係とはどうすれば良いのか? と言う新たな疑問を覚えたのだった。


 疑問を解消する為に、自室のシンプルなベッドの上に寝転びながら2人と通話を始めた。

 鏡花の自室は、綺麗好きな性格が全面に出たスッキリした印象の強い部屋だ。白中心の配色で、本棚にある様々な本の背表紙が彩りを作り出している。

 ゲームをする為のモニターと、繋がっているゲーム機は現在電源が落ちたままだ。動画の視聴や調べ物に使うノートパソコンが、検索エンジンを開いたまま放置されている。そこには、『恋人 付き合う』と検索した痕跡が残されていた。


『好きにすれば~? もう勝ったも同然なんだし~』


『鏡花ちゃん聞く相手間違ってない? 友香ともかちゃんとかに聞きなよ』


『そうだよ~私達は独り身なんだし~』


 困った時は親友に相談。それが昔からの流れだったし、いつもそれでどうにかなっていた。

 しかし、どうも最近はあっさり解決とはいかない。おかしい。どうしてなんだろう。


「モテる恋愛強者と初心者じゃ、違い過ぎて参考にならないんだよ。2人の意見が聞きたいの」


 小春こはるちゃんはもちろん、友香ちゃんや水樹みずきちゃんは目茶苦茶モテる。だから、経験豊富な3人に聞けば、すぐに答え返ってくる。

 だけど、それが自分にも真似出来るかと言えばノーなわけで。初心者は初心者らしい所からスタートするのが筋ではなかろうか。いきなりハードモードは選べない。


『う〜ん、でもキョウちゃんはチューしてお弁当も作ってあげてるでしょ?』


「う、うん。まあそうだけど」


『私達目線だともう十分恋人してるよ』


 あ、あれ。そうなんだろうか。いや、でも恋人となるとやっぱり改めないといけないのでは? こう、何か新しいアクションをしないといけないんじゃ?


「このままで良いって事? でも、それはそれで変じゃない?」


『どうして〜?』


「だって、ほら、やっぱりその、ね? 高校生なんだから、もっと先に進むって言うか」


『……それはちょっと気が早くない?』


 えぇ~やっぱりそうなのかな。でも、重要じゃないかなぁ? やっぱり、付き合うからには、私もちゃんとそう言う覚悟もしなきゃいけないんじゃないかなって、思ってるんだけどなぁ。


『そっか~もうキョウちゃんは初めてを迎える気なんだね』


「そ、そうなんだよ。ちゃんとしないとって思うんだよ」


『鏡花ちゃん、焦るのは良くないよ? 急ぐ事じゃないし』


 カナちゃんはわりと慎重派らしい。やっぱりまだ早いのかな。でも、いつかはその日が来る。避けて通る事の出来ない課題。越えねばならぬ壁なんだから。




「でもほら、真君は鏡花って呼んでるんだから、私も付き合うからには真って呼ばないと」


『『は?』』


「え?」


『キョウちゃんの悩みって~それなの~?』


「え、だって、男の子を名前で呼び捨てなんて初めてだし、その、緊張しちゃうし」


 あ、あれ? 何か話が噛み合ってない? おかしいなぁ。私は恋人同士になった以上は、そこが先ず最初の壁かなって思ってたんだけど。2人は違うのだろうか。


『鏡花ちゃん……小学生じゃないんだから』


「え、え? 2人は平気なの? 恥ずかしくないの?」


『全然平気~』


『流石にそれぐらいは大丈夫だよ』


 な、なんだって……私だけ!? 私だけなのこの悩み。おかしい、2人も私と同じ平凡でごく平均的なモブの筈なのに。

 そんなバカな。恋人を名前で呼ぶって、一大イベントじゃないの!?


「待って、じゃあ2人は一体何の話だと思ってたの?」


『え、何ってエッチだよねぇ?』


『それしかないよね~』


「エッ!?!? えぇ!?」


 ま、待って待って。そんな、そんなのまだまだ先なんじゃないの!? え、違うの!? 私がおかしいのかな!? ま、真君とそんな…………辞めろ辞めろ妄想するな!


「そ、そんな事、相談しないでしょ普通!?」


『え? するよ? 部活の友達とかと』


『うんするね~』


「あ、あれぇ?」


 するらしいです。えぇ、もしかして私が知らないだけで、同級生は結構進んでいるのかな。

 大人の階段って、わりとあっさり登ってしまうのかな。……待って、もしかしてカナちゃんと麻衣も既に!? 私だけが周回遅れになってる?


『まあ私達は聞くだけなんだけど』


『あはは~相手居ないからね~』


「だ、だよね! そうだよね!」


 良かった~~~。私だけ未経験の行き遅れモブなのかと思ったよ。そうだよね、おかしくないよね。

 だって、10代の半分ぐらいは恋愛に興味ないって言うからね。私も最近まで、そうだったし。


『いや、鏡花ちゃんは安心してちゃダメでしょ』


「え、どうして?」


『葉山君だってしたいよきっと〜』


「えぇ!? そ、そうなのかな?」


 確かにちょっとエッチな所はあるけど、そう言う行為がしたいかは別じゃないのかな。ちょっとは気になるみたいだけど、でもそこまで必死なわけでもないし。

 大体、私の体はあまりにも普通過ぎる。細くもないし太ってもいない。麻衣みたいに適度に引き締まってもなければ、カナちゃんみたいにスタイルが良いわけでもない。


 性的な魅力という点で言えば、この3人の中では最下位だと思う。その、男の人って、興奮しないと出来ないんだよね? 私でするのかなぁ。


『男子はやっぱりしたいみたいよ』


『あんまり拒否してるとフラれるらしいよ〜』


「ぇ゙ぇ!? それは困るよ!」


 それが別れる理由になっちゃうの!? 男の子ってそうなの!? ど、どうしよう……って、そこは大丈夫か。良く考えたら、拒否する気はないし。嫌悪感があるわけでもない。


「良く考えたら私、別に嫌じゃ無かったよ」


『あら~キョウちゃんったらエッチだね~』


「その言い方はやめてよ」


『鏡花ちゃんが一番興味無かったのに、変わるもんだね』


 それはそうかも知れない。私達3人の中で、そっち方面への興味は私が一番無かった。厳密に言えばリアルの方では、と言う事になるけど。

 2次元の方ならそこそこある。でも現実に誰かとそんな関係になる未来が、全く想像つかなかった。

 イメージ出来ない事には興味が持てなかった。けど今は、イメージ出来る相手が居る。ちょっとした触れ合いでも幸福感を凄く感じている。

 もしその先に進んだらどうなるのか、知りたい欲はそれなりにある。


「じゃ、じゃあそんな時が来たら、また相談するよ」


『いや、それは流石に小春ちゃん達にして』


『私達経験ないからね~』


「えぇ……」


 今そう言う流れじゃなかったの? 次はそう言う相談を聞いて貰える流れだったよね? 何だか釈然としないけれど、今日の相談はこれにてお開きとなった。

 あれ? 今日何の話してたんだっけ?

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