1章 第43話
結局GWが終わっても、
でもそれを本人に直接聞くのも、何か違うと言うか。これが所謂、察しろって事なのだろうか。
世間一般に聞く、遠回しな言い方でも彼氏や旦那なら真意を理解しないといけないアレか。
女心って難し過ぎないか。アレから1週間ほど経つのだが、鏡花からは特に何かをして来る事がない。
普段通りの関係に戻っている。いや、厳密に言えばちょっと変化もある。前よりも少しボディタッチが増えた様に思う。
キャンプの前までなら、俺から手を繋ぐ事が多かったが、最近は結構鏡花の方から来るパターンが増えている。2人で居る時の距離も、かなり近くなった。
(でもなぁ……だからって、好きとは限らないんだろ?)
授業中にも関わらず鏡花の事で頭が一杯になっていた真は、授業に集中出来て居なかった。
チラチラの教室の隅、鏡花の席の方を見ていた。真の席は教室の中心辺りにある。そんな怪し気な動きをしていれば当然目に付く。
「葉山君? 先生の話、聞いてましたか?」
「えっ!? あっ、すいません!」
周囲の席に座っているクラスメイト達がクスクスと笑い声を上げる。真の姿が見えていた生徒達にはバレバレだったから。真が誰を気にしていたのか。
「前を向いて授業に集中しなさい」
「はい」
ベテラン国語教師のお叱りを受けてしまった真は、とりあえず授業に集中する事にした。ちゃんと集中出来たかは、定かでは無いが。
「は? それでアタシに聞くわけ?」
「だって、仕方ないだろ。分からないんだから」
鏡花の真意が分からず、かと言って本人に聞くのは憚られる。ならもう、幼馴染の
放課後に相談してみたのだが、あまり芳しい反応ではない。もの凄く嫌そうな顔だ。
「アンタさ、キョウが誰とでもキスする様な女に見えるわけ?」
「そんな事はない。ただ、勘違いだったらどうしようかと」
「邪魔くさ! アンタそこはチキンになるの?」
チキンなつもりはないんだが。違ったら痛いヤツだし、気持ち悪いと思われるかも知れない。ただそれが嫌なだけで。
「だって。ボディタッチされたぐらいで勘違いする奴は最悪だって、お前が前に言ってただろ」
「そりゃ大して興味もない、ナシの相手ならよ」
「そこの差が分かったら苦労してない!」
何だよその女子特有の謎理論。どこがどう違ったらアリで、どうだったらナシなんだよ。取扱説明書をくれ。
「表情とか空気とか、そう言うのをちゃんと見なさいよ」
「そんな事言われても……」
「ちょうど良い宿題ね。キョウの気持ちはどうなのか、自分でちゃんと見分けなさい」
「ちょ! 待てよ! 教えてくれないのか!?」
一番聞きたいのはそこなんだが!? 分からないから聞いたのに、これでは何の解決にもならないだろうが。またスタート地点へ逆戻りだ。
「当たり前でしょ。これから付き合ったりしたいんなら、察する能力を鍛えなさい」
そう言い残すと小春は、さっさと鞄を持って帰ってしまった。教室に残された真は、再び思考の渦に飲まれていった。
今日は水曜日、鏡花がバイトの日だ。また後で会う事になるのだが、こんな調子で大丈夫だろうか。
鏡花がアルバイトを始めて、そろそろ1ヶ月が経とうとしていた。カトウ加工で働き始めて、それなりに様になりつつある。
ただ、まだまだひよっ子である事には変わりない。
「鏡花! もっとスピードを上げろ。それじゃ遅い」
「ひっ!? は、はいぃぃ」
「いちいちビクビクするなと言っているだろう」
だ、だって。春子さんの迫力が凄いんだよ。任侠映画で組長の嫁役をやらせたら、嵌り役になりそうな人なんだもの。
やっぱりまだちょっと怖い。そう言う人じゃないのは分かっているけど、体育会系なノリについていけない。
なんせ地が平凡で地味なモブ属性なのだ。最近こそ謎に陽キャルートに片足突っ込んだけど、そんな簡単にガラリと変わったりはしない。
「ま、まだ慣れなくて」
「早く慣れろ。遅くても繁忙期までにはな」
最近の鏡花は、こんな風に春子から直接指導と言う名の、しごきが行われていた。春子は使えそうな人材を見つけたら、自らの手でバシバシ鍛え上げるタイプだ。
素質を感じた鏡花への指導は、当然ながら厳しいものになる。
「左手の使い方が甘い。人間の手は2つあるんだぞ? 両方使いこなせ。右手に頼り過ぎだ」
「うぅ…分かりましたぁ」
「シャキッとしろ!」
しっかりとした大人になりたい鏡花としては、有り難い指導ではある。ただ鏡花には少々、荒療治が過ぎると言うか。
案外これぐらいが良いのかも知れないが、当の鏡花本人にとっては中々にハードだった。
「よし、今日はここまでだ」
「はぁ~~お疲れ様です」
「わけぇ奴がジジイみたいなため息吐くな」
「だって、大変でしたから」
ホントに今日は大変だった。以前と違い今回は印刷物だけじゃない。化粧水の試供品も一緒に封入する必要があるのだけれど、これがまた入れ難い。
紙だけならスッとスムーズに入れられるのに、小さいとは言え試供品の重みが厄介だった。
下手をすると同封のチラシが重みに負けて、試供品が落ちてしまう。上手く入ったと思えば、試供品を入れ忘れていたり。
スムーズに入れられる様になるには、中々の苦戦を強いられた。後半こそ何とか形になったものの、前半は本当に酷かった。
「こう言うのは慣れだからな。数をこなすしかない」
「はい……」
「ま、次は今日よりマシになってるさ」
バシバシと私の肩を叩くと、春子さんは残りの作業を手伝い始めた。私はまだ残るパートさんや社員の方々に挨拶をしてから帰宅の用意を始める。
着替える必要はないので、帰る時の面倒がなくて良い。タイムカードを切りに行くと、入口には既に真君が来ていた。
「お疲れ鏡花」
「うん。今日も宜しくね!」
流石にGWの時はやり過ぎと言うか、ちょっとどうにかしていた自覚があるので、最近は触れ合いたい欲を、抑え気味に接している。
まだ付き合ってもいないのに、キスをするなんてやっぱり良くないからね。でも、手を繋ぐぐらいなら友達でも良いよね。全然不自然じゃないよ。好きな男の子とちょっとした触れ合いぐらい、別に良いよね。
「なぁ。最近どうしたんだ? 結構積極的だよな」
「えっ? そうかな? 私も成長してるって事かな」
真が言っているのは、異性としての接し方の話なのだが。肝心の鏡花にはいまいち伝わっていない。
今日も自分から手を繋ぎ、隣に立つ距離も近い。真の肘に鏡花のささやかな膨らみが当たりそうになっているので、真としては気が気でない。
キャンプに行って以来、真は鏡花から妙な色気を感じている。お陰様で健全な男子高校生の理性は、ガリガリと削られる毎日だ。
「いや、そう言う意味では無いんだが……」
「うん? 変な真君。ほら、行こうよ」
自重を覚えた鏡花ではあったが、その基準がどこか可笑しい事に気付く日は、きっと来ないだろう。
知り合ってすぐの頃は真の方が鏡花をドキドキさせる側だったのに、いつの間にか逆転してしまっている。
こうしてちょっと? 前に進んだ2人の関係は、新たな局面を迎える事になる。
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