エイプリルフール 『陰キャな真君とギャルな鏡花ちゃん』

 特に何もなく本日の授業も終了し、いつも通りの放課後がやって来た。少し前までなら、友達と帰りにカラオケにでも行く所だが、今の佐々木鏡花ささききょうかにはちょっと用事がある。

 数日前にとあるクラスメイトの男子と縁が出来た。困っていた所を助けて貰って以来、彼の事が少し気になっている。


「ねぇ鏡花、早く帰ろうよ」


 小学生からの友達の結城佳奈ゆうきかなが鏡花を呼んでいる。しっかりとメイクをして、若干制服を着崩した彼女はいわゆるギャル系の女子である。

 第2ボタンまで外したカッターシャツから、彼女の豊かな谷間が覗いている。あの谷間に魅せられた男子生徒は多い。


 至って普通で平均的なバストしかない鏡花にとっては、羨ましい限りであった。かく言う鏡花も、ギャル系メイクに着崩した制服と、佳奈と同様の恰好ではあるものの、佳奈と並ぶとやはりスタイルの差は出る。

 全く谷間がない訳では無いが、親友がこうだと流石に気になってしまう。だが今はそれよりも……


「あ、ごめんカナ。麻衣まいと先に帰ってて」

「え? 何かあるの?」

「ちょっと用事がね」


 そう言って佳奈を先に帰らせた鏡花は、残った生徒達が帰っていくのを待つ。続々と帰宅していくクラスメイト達と挨拶を交わしながら、その時が来るのを待つ。30分ほど経っただろうか、教室に残っているのは、鏡花と1人の男子生徒のみ。


 最後に教室に残ったのは、いつも教室の隅に居る、1人の男の子。せっかく整った顔立ちをしているのに、誰とも関わろうとしない変わった男子。

 鏡花も最近まで何の関わりも無かったその生徒の名前、葉山真はやままことという。最近鏡花は、この男の子が気になって仕方ないのだ。

 皆がいる時に話し掛けると、嫌そうにして会話をしてくれなくなる。でも、こうして2人しか居ない時なら、ちゃんと会話をしてくれる。

 最近その事に気付いて以来、こうして2人の時間が来るのを待っている。


「ねぇ葉山君さ、いつもそんな熱心に何読んでるの?」

「……普通の小説だよ。別になんでも良いだろ」

「え~内容とか教えてよ」

「自分で読めば良いじゃないか」


 こうして素っ気ない態度でいつも返されるが、話したくない訳ではないらしい。問いかけにはちゃんと返してくれる。


「文字ばっかりは無理なんだよね」

「コミカライズもされてる」

「あぁ漫画あるんだ~何てやつ?」

「……『アル戦』って検索したら出て来る」

「どんな字書くの?」


 音だけでは分からない。検索する為に鏡花は、彼が視線を落としている書籍を上から覗き込む様にして問いかける。


「う、うわぁっ!?」

「ちょっと、何その反応?」

「ふ、服ぐらい、ち、ちゃんと着ろよ!!」

「はぁ? 着てるじゃん」


 何を言ってるんだろうか、この男の子は。どこからどう見ても制服を着ているじゃないか。何が見えて居るだろうか、彼の目には。

 顔が真っ赤になっているし、様子がおかしい。


「ぼ、ボタンの話だ! シャツのボタンはちゃんと締めろ!」

「はぁ? 別に良くない? 涼しくて良いじゃん」


 何かと思えばボタンとは。そんなのどうでも良いだろうに。それとさっきに反応に何の関係が…………あぁ、そう言う事か。目の前の彼も、素っ気ない様に見えてちゃんと男の子な訳だ。


「あ~見たんだ~エッチだねぇ」

「なっ! ち、ちがうだろ! 佐々木が見せて来たんじゃないか!」 

「別に良いのにそれぐらい。減るもんじゃないし」

「だ、だめだろそんなの。お、女の子なんだから」


 ほうほうなるほどなるほど。彼はそう言う所がお堅いらしい。ちょこっと胸元が見えたぐらいで大げさな。

 こう言う恰好をしていれば、ジロジロと無遠慮に見て行く者まで居るぐらいだ。今更そんな事は気にしない。あまりにねっとりしていると、流石に気持ち悪いが。


 それにしても、こんなピュアな反応をするとは面白い。クールな風を装っているが、ちゃんと自分の事は異性として意識しているらしい。

 あの程度でこんなに慌てるのなら、少々からかってみても良いかも知れない


「別に平気だって、ほら」

「ば、バカ! わざわざ見せるやつが居るか!!」

「フフッ! そんな真っ赤にならなくても良いじゃん」

「し、仕方ないだろ!」 


 普段はあんなにクールに見せている男子が、こうも慌てている姿を見るのは新鮮で良い。多分、こっちの方が素の彼の姿なんだろう。

 その後も適度にからかいつつ、交流を続けていく。好きな食べ物とか、他に趣味はないのか等。自分の知らない彼の一面を、色々と聞いていく。


 この男子とは、もっと仲良くなりたいと思う。色んな表情や、色んな仕草をもっと見せて欲しい。どういう時にどんな反応をするのか、どんな事に幸せを感じるのか。知りたい事は、山の様にある。彼の事をもっと知りたい思う。


「あ、そうだ。ねぇさっきの本の話だけど」

「え? ああ『アル戦』の事?」

「そうそう、どんな字書くの?」

「アルがカタカナで戦は漢字の戦う」


 彼が読んでいる本を見てみたくて、スマホで検索を掛けてみる。結構有名なのか、すぐに作品のタイトルは分かった。『アルバトロス戦記』と言う作品らしい。彼の言う通り、漫画版もあるしアニメ化もするらしい。


 なるほど、彼はこう言うアニメっぽい作品が好きなのかと思いつつ、キャラクター紹介を何となく読んでみる。……するとちょっと気になる事が出て来た。

 出て来る女の子は全員巨乳なのだ。キャラによっては、そのサイズ有り得ないだろと言いたくなる様な子まで居る。

 なんと言うか、全員が鏡花とは真逆だ。佳奈の方が近いと言えよう。それが鏡花には少々、いや結構気に入らない。彼も佳奈の方が良いと、考えるタイプなのだろうか。


「葉山君てさ、大きいおっぱいが好きなの?」

「んなっ! なんだよいきなり!」

「だってほら、出て来る女の子皆そうじゃん」

「い、いやこれは、別に俺が望んだわけじゃ」


 どうにも煮え切らない反応だ。これでは結局ハッキリしないじゃないか。女子として、そこはしっかり把握しておきたい。


「じゃあ興味ないの?」

「な、なにがさ」

「大きいおっぱいだよ」

「うっ、いや、それは、その」


 物凄い勢いで目が泳いでいる。そんなに露骨な反応をしてバレないと思っているのか。答えを言っているようなものじゃないか。

 しかし、それでは面白くない。それじゃあ私ではダメみたいじゃない。


「じゃあ葉山君も彼女は巨乳が良いんだ?」

「か、彼女なんて、俺には、そんなの、無理だよ」

「え? その顔で出来た事ないの? 嘘でしょ?」

「な、なんだよ。仕方ないだろ。俺暗いし、人付き合い下手だし」

「ふーん、そっか。そうなんだ」


 なるほど、彼はまだ付き合った経験がないらしい。じゃあ、そう言う経験も多分無いだろう。だったら、私にもチャンスがある。


「ね、触ってみたくない?」

「は? 何を?」

「女の子の、おっぱい」

「ばっ!? なんだよ急に!?」

「だって、触った事ないから知らないんでしょ?」

「何をだよ!? さ、触った事はないけど!」


 やっぱりそうだ。顔は良いから経験済みかと思っていたが、どうやら未経験らしい。


「大きくなくても、ちゃんと柔らかいんだよ?」

「お、おい何を」


 彼の右手を掴んで、自分の胸元へ持って行く。緊張で固まっている彼の掌を、自分の胸を押し当てる。

 現実を知らないからこその憧れ、それを今ここで破壊してしまえば良い。胸の大きさが女の全てではないと。

 平凡で普通であろうとも、女性としての魅力が無い訳じゃないと。


「……どう?」

「あっ、とその、うぁ」

「もっと触っても良いよ?」


 いきなりだったから困惑している様だが、その割に手を動かして感触を確かめている。決して上手な触り方ではないけれど、そう悪い気分ではない。

 緊張はしていても、男としての本能と興味には勝てないらしい。鏡花のバストサイズは平均値であるとは言え、Bの75はそれなりの膨らみがある。


 初めて触ったクライメイトの柔らかな肉体に、思春期真っ盛りの男子である真は夢中だ。2人きりの教室で、放課後にこんな事をしている。

 この特殊な、ある意味男子にとって憧れるシチュエーション。そして、どこか艶っぽい鏡花の雰囲気に、真はどんどん飲まれて行く。


「ほら、反対の手も良いんだよ?」

「あ、あぁ……」

「ね、どう? 柔らかいでしょ?」

「あぁ……」


 初めて触った同級生の、私の体に彼は夢中になっているらしい。その姿がちょっと可愛く見えて、愛おしい気持ちが込み上げて来る。……少しだけのつもりだったけど、まあ良いか。自分もそれなりに気分が乗って来た。


 最近ちょっと気になっている、意外と可愛い所のある男の子。この男子となら、そう言う事をしても良い。それに、彼は抵抗していない。

 嫌だったら手を振り払っているだろう。そうでない以上は、彼も無しとは思っていないだろう。


「ねぇ。女の子の柔らかい所って、他にも一杯あるんだよ?」

「……え?」

「もっと一杯、教えてあげるね」


 そうして鏡花は、妖艶にほほ笑んだ。椅子に座ったままの真の上に、対面になる様に彼の膝の上に座る。彼がもう十分過ぎる程に、魅了されているのは分かっている

 自己主張の激しい彼の膨らみが丸見えだから。……このまま彼を、自分のモノにしてしまえば良い。

 鏡花は真をこのまま貪ろうと

















 した所で目を覚ました。


(何て夢見てるんだよ私は!? やっぱり私はビッチさんなのか!? 欲求不満なの!? あれが私の理想のシチュエーションなの!?)


 どういう夢だよ! え、何? 私は真君を襲いたいの? そんな欲求持っていたの!?

  何だよあの経験豊富ですみたいな態度。そんな訳ないだろう。つい最近まで異性と手を繋いだ事すらまともに無いぐらいなのに。

 私の様なモブ女があんな、あんないやらしい感じで襲おうとかヤバ過ぎる。鏡花と言う存在が、猥褻物陳列罪の代名詞になってしまう。とんでもない黒歴史だよ。



 深夜に目覚めてしまった鏡花は、暫く思い悩んだのだった。

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