1章 第17話
日曜日に
「ば、バイト? えっ? どうして?」
「いや、マコから聞いたんだけどさ、ちゃんと働ける様になりたいんだよね?」
「そう、だけど、だからバイトなの?」
確かに今、私はこの陰キャ気質を改善しようとしている。モブキャラだから仕方ないなんて理由で、社会不適合者にならない様に真君と色々と努力をし始めてはいる。
いるんだけれども、まだ何か目に見える成果と言うものはあまり無い。多少は、いや若干だけれども、積極的になれた様には思うけれど。
「まあ有り体に言えばそういう事だね~」
「で、でもまだそんな、成果らしい成果は出てないし……」
「あ、まさか普通の接客業とか想像してる?」
「違うの?」
高校生が出来るバイトなんて大体接客業ぐらいしかないのでは?肉体労働とかになると私には絶対に無理だし。他に何があるんだろう?新聞配達とかかな?
「多分ね~キョウは向いてると思う」
「私に向いてる? そんなのあるの?」
「ちょっと口で説明しても、全然分かんないだろうから、今から行ってみよ」
「今から!?」
何だか分からないけど、行先が決まってしまった様だ。小春ちゃんと居るといつも急展開が待っている。ただ、今回に関しては私もちょっと興味がある。私に向いてるバイトがあると言うのなら、ちょっと見てみたいからだ。将来就職を目指す業種になるかも知れない。知っておいて損はないだろう。
その様な流れで、鏡花は小春に連れて行かれる事になった。鏡花自身もわりと乗り気だったから。
自分が普段利用する駅前とは、また違った風景が広がっている。あ、あんな所によさげな雰囲気の個人経営っぽい書店がある。帰りによってみようかな?ああ言う店には掘り出し物があったりするんだよね。絶版になった本とか。
「そんなに遠くないから、今のうちに道覚えといてね~」
「あ、そっか」
そうだった。今は書店の事は後回しだ。もしかしたら、私のバイト先になるかも知れないんだ。ちゃんと覚えておかないと困る。何度も小春ちゃんに案内を頼むのは悪いし。最悪ナビアプリに頼れば良い。
「まあそんなに複雑ではないんだけどね」
「そうなの?」
「そっ! ただね、この辺は陽が落ちると結構暗いからさ」
「迷い易い?」
「そう言う事。最初はちょっと大変かも? 結構夜は見え方変わるからさ」
「わ、分かった! 頑張ってみる」
「アタシが付いてあげたいんだけど、こっちはこっちで今バイトしててね」
「じゃあ尚更だね。」
頑張れ私の頭脳!……方向感覚とかは至って普通のハズ。特に方向音痴を発揮した事はないけれど、そもそもあんまり出掛けないから確証は持てない。
目印になりそうな看板、コンビニなど兎に角目に付く物を確認して行く鏡花。通い慣れている小春は、覚えやすい様に遅めのペースで案内していた。そんな風に2人で歩くこと10分程。
ようやく目的地に着いた、んだけど。何だろうここは?どういう会社?
「ここだよキョウ」
2人が到着した場所は、大きめの倉庫みたいな建物だった。結構敷地は広いみたいで、倉庫の前にトラックが2台停めてある。2tトラック、だっけ?この大きさ。あんまり詳しくはないけれど。
なんだろ? 運送屋さんかな? そう言えばなんて言う会社なんだろうと思って看板を探す。見つかった会社の看板にはこう書かれていた。『株式会社カトウ加工』
「叔母さんいる~?」
閉めてある高さ2mぐらいの大きいシャッターの横には、人が通る為のものと思われる鉄製のドアがあった。小春ちゃんは何度も来ているのか、慣れた感じで中に入っていく。
「あ、待って小春ちゃん!」
初めて来た場所と良く分からない建物に疑問を感じている間に、小春から離れてしまっていたので慌てて追いかける。
「ああ、小春か。待ってたよ」
そう言って奥の方から現れたのは、ツナギを着た背の高い女性だった。小春ちゃんと近い雰囲気の顔をしているけれど、小春ちゃんが美人系ギャルなのに対して、この女性は何て言うか姐御って感じがする。ツナギ姿のお陰で、工事現場に立っていたらめちゃくちゃ様になりそう。
小春ちゃんが身長170cmって言ってたけど、その小春ちゃんよりもまだちょっと高いみたい。小春ちゃんの家系って、皆高身長なのかな?ちょっと分けて欲しい。
「この子だよ~! キョウこっちおいで~」
「う、うん」
呼ばれた私は、小春ちゃんと小春ちゃんの叔母さんが立っている近くまで行く。
「あんたは?」
「さ、
圧が凄い。2人とも背が高いから、身長が155cmしかない小さな私が感じる圧が半端ではない。セクシーでカッコいいギャルの小春ちゃんと、凄い強そうな姐御感溢れる小春ちゃんの叔母さん。モブ感が溢れる小心者の私は、凄く居心地が悪い。いくら仲良くなったとは言え、小春ちゃんからキラキラ陽キャオーラが無くなった訳ではないのだから。
「気弱そうだが、うちはそういうのでも問題ない」
「キョウは真面目だから多分大丈夫だよ」
「あんたが連れて来たんだ、面接はいい。ちょっとやらせてみな」
「オッケー! どれ使ったら良い?」
「今作業台の上にあるDM使え。どうせ明日また続きやるから」
「りょー! さ、キョウこっちおいで」
「え、うん」
なんか分かり合ってる2人は、訳が分かっていない私をよそに、サクサク会話を進めて何かが決まったらしい。私? 全然意味分かりませーん! とりあえず呼ばれたから行こう。
「今からキョウに、ここでの超初歩的な作業をやって貰うから」
「え!? そんないきなり?」
ちょちょちょ! 早いよ! 展開が早いよ! え、そんな急な話ある? 私全然着いて行けてないよ!? もうちょいモブ女子Bに優しくして?そ んなちょっと近所の自販機までジュース買いに行くぐらいの気軽さで進むのやめよ?
「やってみた方が早いからね~。叔母さんこれ宛名は~?」
「もう終わってる」
「分かった~!」
「じゃ今からキョウには、DMの封入作業をやって貰うから」
「なにそれ??」
分かんないよーーーー! 全然全く理解が追い付いてないんだよーーーー!
「あ、キョウこう言うの知らない?」
「あんまりピンと来ないかなぁ」
「そだな~例えばさ、家に郵便で封筒とか届いたりしない? 『お客様へ大切なお知らせ』とか」
「…………あ、見た事あるかも」
「あれと一緒だよ。」
「なるほど」
「そういうのってね、こうして人が中身を入れてるんだ」
「え? あれって工場とかでやってるんじゃないの?」
何となくのイメージだけれど、機械でやっているイメージが強い。こんな街中の一角で人がやっていると言うのはちょっと意外だった。しかもそれが同級生の親族がやっているんだから不思議。
「そう言うのもあるんだけど、その辺説明すると長くなるから今はナシ」
「わ、分かった。」
「まあ封筒に中身セットするだけだから、作業としては簡単だよ」
「そう、なの?」
「ちょいアタシがやって見せるから見てて」
「叔母さんこれ3点で良いの~?」
「おう、そんで良い。左からで頼む」
「ほいほい!」
また何か2人にしか分からない会話がなされた。私はさっぱりですともええ。
「ちょっとこれ見て~」
「うん?」
小春ちゃんがその綺麗な指で示した先には、折ってある用紙の山が左・中央・右と分けて並べられている。全部色が違うから別の用紙、なのかな?
書かれている文章も違うみたいだ。ご案内と大きく書かれた白い用紙と、作品リストと書かれた緑の用紙。そして刊行案内という黄色の用紙の3種類があった。
「これは、3種類の印刷物を入れるから、『3
「あ、そういう意味なんだ」
「で、これを左から順番に手に取りながら、手元で重ねるの。あ、叔母さんこれ左が上?」
「いや、下で良い」
「分かった。」
そう返事をした小春ちゃんは、用紙の山を左から順番に1枚ずつ取って行く。左の用紙の上に中央の用紙を乗せ、最後に右の用紙を一番上に置く。結果、小春ちゃんは3種類の用紙を順番に重なった状態で手に持っている。
「で、これを封筒にシュッとね」
小春ちゃんは近くにあった封筒の口からスルリと手に持った3種の用紙を入れてしまった。3枚も重なってるのに、あっさり中に収まっていた。
「ま、こんな感じよ。分かった?」
「これなら出来そう…」
「じゃあちょっとやってみよ」
「うん!」
「じゃあ、せっかくだからもうちょい詳しく教えよう。先ずは、封筒の種類ね」
「……封筒の種類?」
「学校で先生が茶色い大きいやつ持ってたりするでしょ?」
「ああ! あれ!」
確かにたまに見る。今ここにあるものと違う。これは長方形だし茶色くもない。それに知らない会社の名前が印刷されている。
「あれは
「へぇ~! 小春ちゃん詳しいね」
「アタシは小さい時からお小遣い稼ぎをここでしてたからね」
「そうだったんだ。」
「そゆコト。んで話を戻すと、あの折ってある紙なんだけど、A4サイズの紙を三つ折りにしてあんの。あ、三つ折り分かる?」
「うん、大丈夫。それは分かる」
「おっけ。じゃあここまでを纏めると、今回やるのは、『長3』の『3点封入』ってここでは呼ばれ方る作業ね。」
「な、なるほど」
バイトやってみない? と言う、小春ちゃんのお誘いからやって来たこの初めての場所。陰キャ生活をしていたモブ女子Bには、知らない事だらけで驚きの連続だけれども、何だかここの仕事はちょっと興味が沸いて来た私だった。
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