1章 第16話
一旦昼食を挟んだのち、
「キョウはさ~その眼鏡に何か想い入れとかあんの?」
「え? 特にはない、かな。適当に選んだだけで」
「じゃあさ~眼鏡見に行こうよ。安いもんじゃないから、今すぐは買えないかもだけど」
「うん……ちょっと厳しいかな今は」
「ま、でも見るだけはタダだしさ、買い替え候補探しに行こうぜ」
「うん!」
ちゃんと見えたら何でも良いと言う判断で、一番安いものを買って貰っただけで、鏡花にとっては特別な意味はない。どちらかと言えば、家族に関係するものなので、出来れば自分で買った物に替えたいと考えていたぐらいだ。
「フフ。候補だけ決めてさ~どれが良いかマコに聞く?」
「えぇっ!?」
小春さんはニヤリと笑いながらそんな提案をして来た。
でも……どうせなら似合っていると思ってくれた方が、何となく嬉しい気はする。…………いやいやいや彼女でも無いのにそんな事関係ないじゃないの!! 服の時と良い何考えてるんだ私は!
「やっぱキョウって面白いな~」
「あ、遊ばれてる!?」
「遊んだ訳じゃないけどさ~反応が面白くはあるね」
「うぅ……」
「キョウはさ~自分で思ってるほど暗くはないよ? そうやってたら大丈夫。もうちょい自然体になれたら良いカンジ」
昨日から今日に掛けて、小春さんとの会話がグッと増えた。ちょっとずつだけれど、小春さんといる時もだいぶ緊張感は薄れて来ている。まだ完全には消えないけれども。
そうやって幾らかマシになったやりとりを続けている内に、私達は大手眼鏡チェーン店に到着した。
「アタシはたまにここでサングラス買うんだ」
「さ、サングラス。買った事ない」
「海行く時とか結構良いよ?」
「小学生以来、海なんて行ってないよ…」
「え? そなの? じゃーさ、夏休み一緒に行くべ」
「えぇぇぇぇぇ!?」
「そんな驚く事? ウケるんですけど」
目茶苦茶ナチュラルに海水浴に誘われてしまった。か、海水浴?? そんなパリピと陽キャと幸せファミリー層しか行かない特殊イベントに私が?? も、藻屑になれと!?
「あ~でも全然行ってないなら、水着無いよね?」
「え、それは学校指定のがあるし」
「んなの駄目に決まってんでしょ! 夏に海だぜ? アガる水着着なきゃさ!」
「あがる、水着??」
何が上がるんだろうか。この人はちょくちょく理解出来ない言葉を使う。水着のどこに上がる箇所があるんだろうか? そんなギミック付いてないよね?
「それはまた今度にしよっか。今日は時間も足りないし」
「だ、だよね4月から水着なんて気が早いよ」
「は? 何言ってんの? もう今年の新作水着バンバン出てるよ?」
「え? そ、そうなの?」
「そこからか~~~キョウってちょっと青春捨て過ぎじゃない?」
「えぇ?? な、なぜ??」
「……ま、今年からアタシが居るから何とかなるか」
何だろう? 全然話に着いていけない。ちょっとは距離が近付いた気がしたけれど、まだまだ小春さんとは遠く離れた位置に居るらしい。
「おっと、そんな事より新しいメガネだ」
「あ、待って下さい~!」
スタスタと突き進む小春さんに着いていく。今日分かった事だが、小春さんは結構体力があるみたい。歩き方も凄く綺麗で、体幹?とかも良いんじゃないだろうか?
平凡で鈍臭い私はうっかりしているとすぐに距離を離されてしまう。まるでスポットライトを浴びたモデルの様に、美しく華麗に歩く小春さんと、ワタワタとポンコツ感溢れる動きで追い掛ける私。これが、女子力の差!
「この辺のが良いんじゃない? 高いブランドじゃないし、デザイン性も良い」
「えっと、この辺りの?」
小春さんが示した辺りの商品群は、確かにそこまで高くはない。一番良いので1万円ぐらいの価格帯だ。安いものだと、5000円!?……あ、違うこれセール価格か。
「キョウはせっかく小顔なんだし、もうちょいサイズ小さいのにしたら?」
「へ? 私って小顔なの?」
「自覚ないのかよ~。そこそこ小顔だよ」
「え、でも小春さんとそんに変わらないよ?」
「そりゃそうでしょーが! アタシも小顔なんだから」
そ、そうだったんだ。あれ? じゃあカナちゃんと麻衣は…………あ、確かに私よりちょっとだけ大きいのかも? 眼鏡貸したらキツイって言ってたなぁそう言えば。
「じゃあ、サイズの小さいので探してみる」
「アタシもよさげの探そ~」
2人であ~でもないこ~でもないと、沢山ある眼鏡を掛けたり見比べたりしてみる。思ってたより種類も数も多い。色違いもあるから、何種類か比べるだけでも結構な時間が掛かる。
「こ、小春さん眼鏡も似合う…」
「でしょ! まあアタシは大体なんでも似合う女だからよ」
「う、うらやましい」
「でもぶっちゃけ結構大変だよ~? 体型維持の為にジム行ったり、定期的に美容室通ったり。その費用の為にバイトしたり。もちろんコスメも買う」
「あ、私無理だ」
「諦めるの早すぎでしょ~」
こんな風にちょっとした雑談も交えながら、2人も眼鏡探しは進んで行く。見えれば何でも良い、そんな風に私が思っていた眼鏡を選ぶと言う、ただそれだけの行為が何だかとても楽しい。
もしもあの日、私が真君と出会っていなければ、小春さんとのこんな楽しい時間も無かった。こんな風に仲良くなれる事も無かった。……新しく得られた時間と経験、友人の事を思えば目立つとかそんなの、悩んでいたのが何だか凄く小さい事の様に思えた。
(真君と居る時間も、小春さんとの時間も楽しい。……小春さんの言う通り、もう少し自由に生きてもいいかもしれない。)
「結局この2つが有力候補かな?」
「そう、かな?……どっちがいいかな?」
最終候補として残ったのは、女性向けのピンク色をしたスタンダードなタイプの眼鏡と、男女兼用のアンダーリムと呼ばれる、フレームが下側しか無いタイプの眼鏡だ。どちらも今私がしているものとは大きくタイプが違う。まあ私のはコスパ重視の黒くて大きめのただの丸眼鏡だしね。
「ま~可愛く行きたいならピンク、少し大人っぽさ出したいならアンダーリムじゃね?」
「うーん、どっちにしよう」
さっきからちょっと考えていた事がある。今日と言う楽しい時間を経験して、真君だけじゃなくて、この目の前の優しくて綺麗な女の子とも、私は仲良くなりたいと思った。きっとこの人達は陽キャだとか陰キャだとか、そんな些細な事は気にせず生きている。私もいつか、そんな風に思える様になりたい。だから、この2人について行きたいと思うから、今日ももう少し一歩前に進んでみよう。
「こ、小春……ちゃん、はどっちが良いと思う?」
「? フフッ! そっか~小春ちゃんは、どっちかって言うと、アンダーリムなキョウが好きかな~」
「じゃ、じゃあこれにするよ!」
「だいぶアタシに慣れてくれた~?」
「うん、もう大丈夫だと、思う」
「そっかそっか。じゃあ決まった事だし、今日はここまでにしよう!」
「う、うん!ありがとう小春ちゃん!」
ちょっとだけ、ほんの少しだけこの美人でカッコいい女の子、小春ちゃんと私は仲良くなれたと思う。今日はなんだか、久しぶりに日曜日を満喫出来た気がする。家に居たくないからと、図書館に引き籠るよりずっと充実した1日だったと思う。
「あ、キョウさ~まだ時間ある?」
「え?…15時だからまだ大丈夫だよ?」
「じゃあさ、ちょっと提案なんだけど、バイトする気ない?」
「えっ?」
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