呪いの指輪

雨蛙/あまかわず

呪いの指輪

風の冷たさが鋭く感じてきたころの話。


何の変哲もない通学路の片隅に、妙に目立つ赤い箱があった。


何気なくその箱を拾い上げる。どうやら指輪が入っている箱だ。


箱を開けて見ると、中にはちゃんと指輪が、それと紙が入っていた。


『呪いの指輪


呪いをかけたい相手に指輪の宝石部分を向けると呪いにかけることができます』


いったい何のことだかさっぱりだった。


呪いをかけることができる?こんな危ないもの誰が落としたんだろう?


これは届けに行くべきなのか?それともここに置いておいた方がいのか?


「おっ、ナオじゃん。おはよー」


「ハルくん、お、おはよー」


「どうしたんだ?こんなところで立ち止まって」


「いや、何でもないよ」


「そんなちんたら歩いてたらおいていくかんな」


「ちょっと待ってよー!」


走って行くてるくんを急いで追いかける。




「結局持ってきちゃった…」


自分の席に座って指輪を眺める。呪いをかけられるって本当なのだろうか。


「なあー黒板消しやっといてくれよー」


遠くで話声が聞こえる。あれはガキ大将のヨウくんだ。また自分の仕事を人に押し付けている。


「そんな、今日はヨウくんが当番だろ?」


「俺はこれからトイレに行くから忙しいんだ。だからやっといてな」


そう言い残して教室から出て行った。もちろんトイレに行くはずもなく廊下で話し込んでいる。


そんな様子を片目にしぶしぶと黒板を消している。


いつもそうだ。見ていて腹が立つ。でも、だからと言って文句を言いに行ったら殴られるからな…そうだ。


僕は指輪をはめ、ヨウくんに向けた。


「呪いにかかっちゃえ!」


…何も起こらない。本当にかかるなんて思ってなかったけど。


「いたっ」


「どうしたんだ?」


「指がちくっとして…何だよささくれができてるじゃんか。おい、しかも全部の指にできてるよ。さっきまでできてなかったのに。気になって仕方ねえ」


え?もしかして呪いって全部の指にささくれを作ることだったの?これ呪いっていうのか?


まあいいや。これでようくんは一日中ささくれのことで頭がいっぱいになっていることだろう。




キーンコーンカーンコーン…



「だれかドッジボールやる人ー!」


昼休みのチャイムが鳴ると同時にてるくんがボールを掲げてみんなに呼びかける。


僕もてるくんやほかのクラスメイトと一緒に運動場に飛び出していく。


「よし、線は引いたな?それじゃあチーム決めるぞ」


「何やってんだお前ら。ここは今から俺たちがサッカーをするんだ。早くどけよ」


仲間分けの話し合いをしているところにサッカーボールを持った上級生がやってきた。


「なんでだよ。ここは俺たちが先に取ってたじゃんか」


「なんだお前。口答えしてんじゃねえよ!」


上級生がてるくんを突き飛ばした。てるくんはそのまましりもちをついてしまった。


「いてて…」


「てるくん、大丈夫?」


急いでてるくんに駆け寄る。傷は見当たらないけど腰を痛そうに押さえている。


「俺らに逆らうからそうなるんだ」


「ちょっと!そこまでやらなくてもいいだろ!」


「なんだ?お前も痛い目見たいのか?」


指をぽきぽきと鳴らしながら脅してくる。僕じゃ立ち向かっても一方的に殴られるだけだ。


僕たちはしぶしぶ上級生に運動場を明け渡した。でもこのまま譲るわけにはいかない。せめてもの抵抗をやってやりたい。


僕は上級生たちに指輪を向けた。


「呪いにかかっちゃえ!」


「痛っ」


「なんだ?どうしたんだ?」


「いや、なんか指にささくれができてるわ」


「いてっ、俺にもできてる」


「俺にもできてるじゃねえか、くそっ」


みんな呪いにかかってしまったみたいだ。上級生がイライラしている姿を見てちょっと気分がすっきりした。




この指輪、呪いだとか書いてあったけど、いやがらせ程度の力しかないな。だったらいたずらにも使えて面白そうだな。


そんなことを考えながら家に帰り着いた。


「ただいまー」


「ナオ、おかえり」


リビングに入ると、お母さんがこたつに入ってテレビを見ていた。


「あれ、お母さん、その指どうしたの?」


お母さんの指には絆創膏が貼ってあった。


「ああ、これ?ちょっとささくれができてしまってね」


「そうなんだ。ハンドクリームとか塗ったりしないの?」


「塗っても料理作ったりお皿洗ったり掃除したりですぐに落ちてしまうよ」


「辛くないの?」


「そんなの気にしてたら主婦なんかやってられないよ。それにささくれができるってことは寒さに負けずに頑張ったって言いう勲章だからね」


「ふーん…」


ささくれが頑張った勲章か…


僕はこの指輪を使って、何もやってない人たちに勲章をあげていたのか。


そう考えると、自分のやっていたことがばからしくなった。


次の日の朝、指輪の箱を拾った場所に戻して学校に急いだ。

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呪いの指輪 雨蛙/あまかわず @amakawazu1182

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