第11話 ただいま幼女

「ふひぃー。疲れました」


帰宅してバックパックを降ろし靴を脱ぐ。

そのまま廊下に仰向けで倒れる。

荷物は……、明日片付ければいいや。

終わってみれば当初の予定よりも1日短縮して4日での攻略だった。

最後の最後で別パーティが入ってくるとは思わなかった。

本当、あれは焦った。

やはり1対2だとどうしても手数が足りない。

あそこで苦戦していなければ、彼らが入って来た時に慌てて幻惑イリュージョンを使わなくて済んだ筈だ。

結果的にパーティさんたちを聖封セイクリッドシールの中に閉じ込めることになってしまった。

反省だ。


「晩御飯は……、パスタで良いかなぁ……」


こういう時、茹でて混ぜるだけのパスタはお手軽で良いよね。


「ふわぁ~ぁ」


欠伸が出た。

いけない。家に帰って来た安心感からか眠気が一気に来た。


「まずはお風呂を……、それから……」


瞼が重くてちょっとだけ目を閉じて――

スゥーっと意識が落ちていった。

…………。

……。

柔らかな感触に、頭を撫でる温かい手。

瞼を開けると結那ちゃんが私の頭を撫でていた。

結那ちゃんを見上げているので、どうやらソファーの上で膝枕をされているようだ。


「結那ちゃん?」

「あ。目、覚めちゃいましたか? おかえりなさい」

「はい。ただいまです。結那ちゃんもこんばんは」

「もう。連絡貰ったから来てみれば玄関で寝てるんだから。いくら体が若くなったからって無茶は駄目です」

「あはは。すみません。ちょっと気が抜けたみたいで、ありがとうございます」


結那ちゃんは寝落ちしていた私をソファーまで運んでくれたようだ。


「お風呂入れておきましたけど。一人で入れます?」

「ふわぁ。はひぃ。大丈夫です」


立ち上がって、まだちょっと眠い瞼をこすりながらお風呂場へ向かう。

結那ちゃんが寄り添ってついてくるので、脱衣所の前でお別れした。

疲れているとは言え、流石にお風呂は一人で入れますからね?

そんな切ない顔しても駄目です。


「ふぅー。数日振りのお風呂。気持ちいいです」


鼻下まで湯船に浸かる。

やはり日本人ならお風呂だよね。

身体の芯から温まるこの感覚。とても好き。

冬場とか朝からゆっくり入っちゃうからね。


「結那ちゃん。すみません。髪を乾かすのを――お願いします」

「はーい。任せてくださいね」


髪を乾かすのを手伝ってもらおうとしたら、結那ちゃんはすでにドライヤーを持って待ち構えていた。

なんというか、準備万端ですね。

その後は、結那ちゃんが買ってきてくれたお弁当で夕食にした。

夕食の場で今回のダンジョンキャンプの話になる。

動物園ダンジョンのフィールドがどうなっているかとか、モンスターとか。

それからあるプレイヤーさんと再会したとか、ケルベロスをモフモフ出来たこととか。

そんなことを話したら、結那ちゃんは笑顔で私がケルベロスとじゃれている動画を見せてくれた。

どうやら人気らしく結構拡散されているそうだ。

ちなみに、幻惑イリュージョン魔法の効果は抜群で私自身ですらケルベロスとじゃれているのが自分と認識出来ない。

うん。今後もこの手法は継続だね。と決意する。

そうして、結那ちゃんとの団欒は続くのだ。


***


みのりが大欠伸をして新しいパジャマ姿でベッドに潜り込んだ頃。

SNSでは動物園ダンジョンソロ攻略が話題になっていた。

勿論、みのりのことである。


【はえ? ナニコノ動画?】


【座敷童ちゃんのヘル&ヘブンパンダソロ討伐(素手】


【なにこれしゅごい】


【ほぇ~。最下層ボスってソロいけるんだぁ~】


【一部上級プレイヤーならいけるかもしれんけどな? 良い子は真似しちゃだめよぉ~】


【なんかこの動画凄すぎて一部の人の語彙力が…(アカン】


【安心して欲しい。オレもちょっと自信にゃい】


【これって流石に拳聖のおっさんでも無理?】


【過去の記録だとパーティ戦での実績だけっぽ】


【マテ。最下層ボスと1VS2の時点で無理ゲーすぎるだろ】


【過去にパーティに支援してもらいながら一人で倒したプレイヤーは居た】


【ああ。ソロ討伐と言いながらバフばれして炎上したヤツか】


【あれも普通に偉業なのに変な宣伝したからケチついたんだよな】


【今回のは偶然突入したパーティと座敷童ちゃんがかちあった感じか】


【仕込みじゃねーの?】


【このパーティ。下層入ってからほぼ配信しっぱなしだらかそれは無いんだよなー】


【本人たちも驚いてたしな】


【配信の人、突入即側面からの雷撃弾で乾いた悲鳴上げてたよな】


【それは草】


【大丈夫だ。そんな場面、俺でもそうなる。むしろ漏らす自信がある】


【わかる。たぶんいろんなの出ちゃう】


【ヘル&ヘブンパンダの最終奥義の時なんて聖封セイクリッドシールで動けなかったから無茶苦茶焦ってたしな?】


【聖封引き籠りは一部ボスだと禁じ手だからな。マジレベルによっては死人が出る】


【まぁ、聖封で相殺しちゃってるんだけどナー】


【バフヒーラーの私。こんなの見せられたら明日からどうやって立ち回ればいいかわからない(泣】


【拳闘士の俺。同じくこんな立ち回り要求されても無理。死んじゃう】


【安心しろ。普通ならそんな要求されないし、してくるようなパーティはクソだ】


【クソパーティってホントにあるからな。ソロ最高だよ】


【拳聖:誇張するつもりは無いが、あのパンダどもは1対1なら勝てる。2体同時は無理だ】


【おわっ! 拳聖のおっさんキタコレ】


【拳聖:見込みのある若者だと思っていたが、正直俺より強いようなので手合わせ以前に弟子入りしたい…】


【ちょ、拳聖のおっさんw】


【拳聖のおっさん。素直過ぎて草】


【悲報 拳聖のおっさん。座敷童ちゃんに弟子入り希望()】


【槍聖:おい。拳聖。お前急に修行の旅に出たいとか勝手なこと言ってんじゃねーぞ!】


【は?】


【え?】


【おおう。まさかの槍聖公式垢が降臨www】


今夜もSNSは盛り上がっていた。

相変わらず、当人の知らないところで……。

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