第10話 動物園ダンジョン8
みのりが動物園ダンジョン下層第3層を爆走している中、とある中堅クランのパーティも同じく下層第3層攻略を目指して進行していた。
中堅と言ってもクランの規模が中堅ということであって、その実ほとんどを上級プレイヤーで占めている手練れのクランである。
彼らは危なげなく攻略を進め、みのりから少し遅れて下層第3層ボスフロア前へと到着したのだ。
「各自回復を。バフ掛け完了次第突入する」
「了解っす」
「オッケー」
「大丈夫だ。問題無い」
リーダーの言葉にパーティメンバーたちが答える。
「作戦通り第一パーティが対応するヘルを優先して撃破だ。第二パーティはヘブンを足止めしつつ、後衛は可能なら第一の援護を。大技を使われる前にヘルを倒すぞ」
彼らはみのりと違って下層第3層ボスと何度も戦ってきているので攻略方法を熟知している。
つまり、大技を出されるとパーティが瓦解するという危険性も十分に理解していた。
故に、11人2パーティによる短期決戦なのだ。
なお、内1名は配信係である。
実のところ、下層まで安定して潜れるパーティやプレイヤーは実のところ少ない。
そのため、下層の配信はエンタメ性が高くそれだけでそれなりの収益になるのだ。
「な、なんだッ?」
ボスフロアに突入した彼らが見たのはヘブンパンダと対峙する小さな女の子。つまり、みのりだった。
「いけないッ!?」
と、彼らに気付いたみのりが焦ったような口調で叫んだ。
同時に、ゴゴゴゴ。という音が彼らの側面から近づいてくる。
「ひあッ」
パーティの誰かがその音の正体に気付いて乾いた悲鳴を上げ硬直した。
同時にリーダーは自分たちが最悪の状況に突っ込んでしまったことを理解したが、既に命令を出すだけの猶予は残されていなかった。
馴れてきて油断したか。仕方ねぇ出直しだな。とリーダーが諦めようとした直後。
「――彼の者たちを守護せよ。
バチコンッ!!
『ミャアッ!!』
パーティを包むように聖封が展開され、突進していたヘルパンダを吹っ飛ばした。
「すみませーん。ちょっと待っててくださーい」
ヘブンパンダを蹴っ飛ばしたみのりは、今度は聖封に弾かれ落下中のヘルパンダへ回し蹴りを決める。
その状況に、パーティはリーダーを含めコクリと頷く事しかできなかった。
なお、その間も配信はしっかりされていて。
<は? えええ!?>
<え? ヘル&ヘブンパンダをソロ? え?>
<待って、今の超級熊猫雷撃弾じゃん?>
<悲報。ボスフロアに入ったらすでにボスが発狂モード>
<しかもちっさい女の子が素手で戦ってる>
<どういう状況?>
<俺が聞きたいわ…>
突然の出来事に視聴者も大混乱だ。
<座敷童ちゃん。やっぱり最下層目指してたんだ! 網を張っていた漏れ天才>
<なにそれ詳しく>
<この子、先日話題になった座敷童ちゃんだよ>
<一昨日話題になったケルベロスをモフる動画の子でもある>
<は? あの癒し動画ってマジもん?>
<動物系のアカウントが大量転載してたからフェイクだと思ってたわ>
<鈴音ちゃんの配信はフェイクじゃないから>
先日のケルベロスモフり殺し事件はやっぱりSNSでバズっていた。
この件、結那も把握しているが、可愛いからいっか。ということで、みのりへは伝えられていない。
<待って。ヤバイよ!!>
<あ。やばい。パンダヤバイ。最終奥義来る>
<ああ!? 誰かその子に教えてあげて、それは不味い>
配信画面の中ではヘルパンダとヘブンパンダが仲良く手を繋ぎ合わせていた。
その姿に視聴者たちが警告を発する。
「おい! ちびっ子ッ!! そいつを撃たせちゃダメだ。直撃したら脱出アイテムも役に立たねぇ!!」
リーダーが声を張り上げて叫ぶ。
だが、みのりはヘル&ヘブンパンダと対峙して動かない。
何故か? 背後に彼らが居たからだ。
そして、放たれるヘル&ヘブンパンダの最終奥義――その名も極愛石破天驚熊猫拳。
何故かハートを背負った偉そうなパンダが顕現し、みのり目がけて突っ込んでいく。
<お、おいおいぃぃぃッ!!>
<らめぇぇぇッ!!>
<逃げてぇぇぇ>
<でも、避けたら聖封に直撃コース>
<いや。これ氏>
「――聖封」
みのりは一度後退すると聖封に護られたパーティの前で自身とパーティを包むように聖封を発動する。
そして、追加で聖封を発動。
三重の聖封による結界を展開する。
直後、ハートパンダが聖封に衝突。
凄まじい衝撃が走り、ミシミシと聖封が悲鳴を上げる。
そして、遂に聖封が砕かれた。
「なッ?」
<へッ?>
<え?>
<ええッ??>
<はいッ?>
『『ミャ?』』
だが、砕けたのは聖封だけではない。
ハートパンダも砕けて消滅したのだ。
「――道を拓けよ。
『『――ャッ!?』』
無魔法の縮地によって、みのりは一瞬でヘルパンダとの距離を詰める。
必殺技の反動で硬直しているヘルパンダへ掌底を叩き込んだ。
大技後の硬直中ではヘブンパンダも援護が出来ず、魔力の乗った掌底の直撃を受けたヘルパンダが白目を剥いて崩れ落ち消滅する。
『ミャアアアッ!!』
相方を倒されたヘブンパンダが怒りに燃え渾身の拳をみのりへ叩きつける。
が、その腕はみのりの蹴りによってかち上げられる。
反動でヘブンパンダの身体が大きく仰け反る。
そして、ヘブンパンダの身体に紫の怨霊がまとわりつく。
闇魔法の
呪怨によって完全に動きを封じられたヘブンパンダにも魔力の乗ったみのりの掌底が叩きつけられる。
その巨体が吹っ飛び轟音を響かせて壁にぶつかった。
『ミャァァァ……』
まだ倒しきれていない。
流石は最下層ボス。だがしかし――
ズドン。と、みのりの空中一回転踵落としがヘブンパンダの脳天に決まった。
『――ッ!?』
頭を破壊されたヘブンパンダは断末魔を上げることなく消滅した。
――静寂。
配信画面ですら静寂に包まれてコメントが一切流れていない。
みのりは、そんな状況を一切気にすることなくドロップアイテムを回収していく。
そのまま最下層ボス撃破によって出現したワープポータルへ。
「すみません。お騒がせしました。それでは失礼します」
ペコリ。
お辞儀をしてポータルを発動させるとみのりは消えてしまった。
「お、おう」
唯一反応出来たリーダーだけが軽く言葉を発する。
振り返ると、パーティメンバー全員がポカンと口を開けていた。
<<<うわあああッ!!>>>
直後、静止していた画面が驚愕のコメントで埋め尽くされる。
<おいおい。マジかYO>
<う、嘘だと言ってよ。リーダーぁ>
<ヘル&ヘブンパンダソロ討伐とか公式記録上初じゃね?>
<そうだよ。これが初だよ!>
<極愛石破天驚熊猫拳って聖封で防げるのかよ!?>
<いや。過去に同じことしたパーティは死人こそ出なかったが全員病院送りになった>
<嫌な事件だったね>
<故に聖封引き籠りは禁じ手>
<実際、相殺だったけどな>
<むしろ、聖封多重展開とか>
<出来ないことは無い。魔力めちゃくちゃ使うからやらないだけ>
<そりゃ。ケルベロスもお腹見せて服従のポーズするわ(白目>
<微笑ましい事件だったね>
<漏れもモフモフされたい人生だった>
<事案です>
<通報>
<でも、座敷童ちゃん。まじ何者…>
<オレが知りたいわ>
<俺も俺も>
<私もッ!>
<俺もナー>
その後、パーティはリポップしたヘル&ヘブンパンダを無難に撃破した。
そして、視聴者はヘル&ヘブンパンダの攻略はやっぱりこうだよね。と、みんな納得したのだった。
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